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「快適」の先にあるもの | 健康とウェルビーイングのあり方

「快適さ」を追い求めることは幸せだろうか?

現代の多くの人はそう信じているし、快適さを売り出すことで多くのビジネスが大金を儲けている。過去にも暮らしの質をあげるために農業革命が起こり、産業革命が起こり、様々なイノベーションが起きている。

ダニエル・E・リーバーマン 著の人体600万年史(下):科学が明かす進化・健康・疾病(原題:The Story of The Human Body: Evolution, Health, and Disease by Daniel E. Lieberman)によると、行き過ぎた快適さの追求やテクノロジーによって、人間の身体にミスマッチを引き起こし、様々な病気を引き起こすと述べている。

人間には健康になるようには適応していない

Photo by Laura Fuhrman on Unsplash

上巻の内容で、そもそも人間は何に適応しているのか、という内容が書かれていた。

上巻の内容によると、人間は健康や幸せになるために適応するのではなく、繁殖成功率を高めるために進化したのだと説明されていた。そして生物学的な進化と現代の文化のミスマッチが様々な病気を引き起こしているのだと。

下巻では、人類が作り出した農業革命と産業革命によって起きたミスマッチ病について詳しく解説されている。

上巻の内容に関しては、下記の記事で書いた。

農業革命によって広まったミスマッチ病

Photo by Raphael Rychetsky on Unsplash

農業は、人類の人口成長を支える上では最適なシステムだった。狩猟採集民よりも多くの食物を手に入れることができ、多くの子孫を残すことができる。

しかし、農業によって狩猟採集民より働く時間が長くなり、食事の質も低くなり、洪水などの天災によって飢餓に直面する危機が高くなった。また、人口密度が高まるために感染症や社会的ストレスの発生も高まった。

農業によって人類に多くのミスマッチ病がもたらされている。

狩猟採集から農耕に変わったことによる新しい健康被害

狩猟採集から農耕にシフトした事による問題の一つとして、栄養の多様性と質が損なわれたことを本書ではあげている。

狩猟採集民は狩猟で得る肉以外に、何十種類もの植物を季節に合わせて摂取するが、農民は量を優先し、数種類の主食食物を大量に生産しようとする。そのため、狩猟採集民の食事と比べ、大抵農民の食事にはビタミンとミネラルが不足することになる。

また、虫歯も農耕にシフトしたことで新しく起きた重大な健康問題だという。農民が育てる穀物などに豊富に含まれているのは澱粉で、取りすぎると虫歯になる。特に現代と違い、抗生物質や歯科医療が発達していなかった時代は決して些細な問題ではなく、場合には命に関わる深刻な感染症も引き起こした。

農業によって数種類の作物のみに依存するようになったために洪水などの天災が起きた際に、飢饉になる可能性がずっと高くなった所も見逃せない。農業が発明されて以来、死亡原因として飢饉はとても多かった。

集団で住むことによる感染症

農業の利点の一つとしては、カロリーが得やすくなったことで人口の成長につながったことなのだが、人口増によって人間の定住パターンに変化が生じたことで、新たな種類の感染症を引き起こすことにもなった。

人口密度が高まるにつれ、病原菌が新たな宿主にうつりやすくなるような環境が出来上がった。また、通商で農民が生産物の余剰を交換する際にも、微生物を交換し合うことで、伝染病が広まりやすくなった。

本書によれば、結核、ハンセン病、梅毒、ペスト、天然痘、インフルエンザなどはすべて農業の創始とともに流行り出したものだと述べている。

また、多くの人間が永住を始めることによって、大量のゴミや汚物をため込むことになり、結果そこにネズミやスズメなどの小動物が住み込み、病気を媒介するようになる。公衆衛生設備が作られるまで、多くの病気を呼び込む原因となった。

産業革命がもたらした身体の変化

Photo by Rayi Christian Wicaksono on Unsplash

産業革命は歴史の流れを急速に変え、人間の身体に変化をもたらした。

変化の多くは有益だったが、産業革命によって起きたミスマッチ病も多く存在する。人間の身体は産業革命後の新しい環境に素早く適応できなかった。

テクノロジーで人間のエネルギーの消費量が少なくなった

まず、テクノロジーの使用によって、労働者の仕事に変化が起きた。農業と比べ、身体活動においては大幅に楽になった。オフィスワークが増えるにつれ、エネルギー消費が少なくなる傾向がどんどん増えていった。

仕事だけではなく、生活様式においてもどんどん楽な方向にシフトすることでエネルギー消費は少なくなっている。自動車、自転車などの移動テクノロジー、食器洗い機、掃除機などのテクノロジーは身体活動を大幅に軽減する。

食生活の変化

産業革命は食生活もガラッと変えた。一番大きな変化として挙げられるのは、食品生産者が、脂肪、澱粉、糖、塩など、何百年もずっと人類が欲しがってきたものを安価で効率的に作る手段を見つけたことだ。

本書の糖分を例に取ると、18世紀の奴隷の使用によるプランテーションから大量生産が始まり、19世紀後半の奴隷廃止とともに工業的な手法が適用され、1970年には化学者がコーンスターチを糖液に変える方法を見つけることで、糖分の普及は劇的に広まった。

昔は贅沢品だった肉や糖分を、今では簡単に入手できる。

食品加工技術

人類が加工技術を持ったことで、食品は便利さや日持ちの良さを高めるように大幅に改良されるようになった。

食物繊維を取り除き、澱粉や糖分の含有量をふやす食品加工によって、人間は以前より簡単に食物を消化し、尚且つ高いカロリーを摂取するようになった。そしてここには食物繊維やその他の栄養素は何も入っていない。

結果、人類はテクノロジーを開発し、狩猟時代と比べて桁違いの量の食品の生産を可能にしたが、それらの食品は栄養的に貧しく、カロリーだけが豊富だ。

睡眠の変化

産業革命によって、夜更かしできる娯楽が増えたことにより、睡眠が奪われるようになった。

本書によると、先進国では少なくとも人口の10%が深刻な不眠症にかかっているという。

過度な飲酒、運動不足、不安など、様々な身体的・心理的要因があるが、そういったストレスが眠りを妨げ、眠りが不十分になるといっそうストレスにかかりやすくなるという悪循環にかかってしまう。

なぜ人類はわざわざ危険に手を出すのか

Photo by Robert Ruggiero on Unsplash

タバコのニコチン、保存料や発色剤がたっぷり入った加工食品など、有害かもしれないとわかっていながらなぜ人類は手を出してしまうのだろうか。

本書によると、人間の費用対効果的な評価の仕方が、関係しているという。人間は直近得られる利益を、将来における利益よりも高く見積もる。だから直近の欲求や行動や快楽を手に入れたり、生活を高める効果を高めるためなら、潜在的に有害でですらも許容してしまう。

また、心理的傾向の二つ目の理由として、人間は「快適さ」を幸せと勘違いしてしまう。

あまりに「快適さ」を突き詰めれば、それが有害になるということに、人間は気付きにくい。運動不足はまさに快適さを追求したところにある。本書では、快適さによる影響に関して、読書すること、座っていることを例にあげている。

例えば、近視は狩猟採集民にとってはとても稀だったが、現代にとってはメガネをかけるのは至って普通のことのようになっている。考えればずっと文字やスクリーンを眺め続けているのは普通ではない。また、何時間も快適な椅子に座っていることで、筋肉を衰えさせる。

「快適さ」を超えた先にあるもの

Photo by Robert Ruggiero on Unsplash

「快適さ」は良いものであると人間は思い込んでいて、そして広く宣伝されてもいるため、人々は多くのお金を快適さに費やす。快適さのためにいくつものイノベーションが生まれてきた。

しかし、多くのイノベーションは必ずしも人間の健康にとって有益ではないと本書は述べる。

人間の体は過去数百万年で大きく進化してきたが、現代テクノロジーにはまだまだ適応できていない。今ある便利なことも過剰に利用しすぎると害になってしまう。エスカレーターも運動不足の原因になっているかもしれない。椅子も座り過ぎれば筋肉を衰えさせてしまう。

しかし「快適さ」を追求する流れは消えない。誰が快適さを嫌うだろうか。そして快適さを提供することで、儲かるのだ。

本書ではこの流れは止めることは難しいが、何が正常で何が快適なものなのかを進化論的観点から考えることによって、こういったテクノロジーをどう使用したら良いのか、良い見方ができるのではないだろうかと述べている。

まとめ

農業革命、産業革命、快適さへの追求を通して、どのようなミスマッチ病が発生したのかが述べられ、本書の最終章では進化の理論は、人間の身体にとってのより良い未来のためにどのように役立てられるのかが述べられている。

人間の体の進化は、自然選択を通して変化しながら、かつ、自然選択のペースを、文化的進化のペースが上回ってしまったという本書の見方は面白い。今、私たち一人ひとりが作り上げる文化が、未来の多くの人間の身体の進化を左右している。

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