孤独はどのようにして起きるの?孤独はどんな影響を及ぼすの?
上記の質問に関して、より深く理解できる本を紹介。
満たされた毎日を送るためには、身体だけに気を使うのではなく、精神面、社交面のケアも大切になる。
孤独を理解することで、より満たされたライフスタイルを作るきっかけになるのではないかと思う。
孤独はなぜできたのか?
人間は痛みを感じるおかげで、危険から身を避けようとする。
これと同じく、社会的な痛み、つまり孤独感も同じ様な理由で発達した。孤独感を感じることで、積極的に社会的つながりを持たせようとした。
いつ孤独になるのか
孤独は、文字通り一人でいるときに孤独感を感じるのではない。孤独感という主観的な体験だ。
つまり誰か他者と一緒にいても、自分が孤立していると思えば、孤独感を感じる様になる。
逆に独りでいても、孤独に感じないこともある。何かを没頭している時などは、独りにいることに喜びを感じることもある。
なので孤独=独りと簡単に決め付けるわけにはいかない。
孤独感を感じるとどうなるか
孤独感は生理的変化を起こし、老化のプロセスを加速し、人の行動を変え、ストレスホルモンや身体機能の数値に反映される様になる。これが長期にわたって続くと、寿命をどんどん縮めることになる。
また、孤独感は「社会的痛み」と表現されるが、これは比喩にとどまらない。実際に脳の中では、身体的な痛みに対する反応も同時に受け取っている。
孤独感が深刻な問題になるのは、それが慢性化し、ネガティブな思考、行動が循環してしまうときに起こる。
孤独感の三大要因
本書では、孤独感の影響力は、3つの複雑な相互作用から生まれるとしている。
- 社会的な繋がりに対する欲求の強さ:遺伝にも関係している。個人によって社会的疎外による苦痛の感受性は異なる
- 孤独感からくる情動をコントロールする能力:コントロールしきれなくなると、ストレス要因に対する身体の抵抗力が弱まり、睡眠などの回復機能の働きがうまくいかなくなる
- 他者に対しての心的推論:孤独感にとらわれると、相手、社会が自分をどう見てるか、予期能力に大きな影響が出る
人によっては社会的疎外がかなり苦痛に思う人もいれば、そうでもない人もいる。またコントロールが上手い人もいれば、難しい人もいる。要因の大きさは人それぞれによって異なる。
遺伝と環境
社会的な繋がりの強さなどは遺伝からも影響されるとあったが、実際に遺伝と周りの環境どちらに強く影響されるのか。
個性の基本的な発現は、遺伝子か環境かどちらかではなく、遺伝子と環境の相互作用だという。
孤独感を生み出す遺伝的な傾向と、生活環境の相互作用によって、孤独は起きる。
また、本書が紹介する一卵性双生児を対象にした実験によると、社会的な繋がりの感覚を求める様な遺伝性については、遺伝が与える影響が48%, 環境から52%という数字が出ている。
孤独感の代償
孤独を感じると、ありきたりの小さなミスでさえ、おおごとに感じてしまい、失敗を乗り越えられなくなる可能性がある。
それが続くと、社会的ばかりでなく、生理的にも影響が出る。孤独感は心臓血管機能に持続的な変化を起こし続ける。
孤独感がアルコール摂取や、脂肪分のある食事に結びつく。孤独感に陥ると、積極的に運動もしなくなる。睡眠も効率が悪くなり、余計に疲れがたまる。
身体の構造と現代の世界のミスマッチ
原始時代から、命が猛獣などから危険に晒された時、すぐに逃げたり、行動できる様に、ストレス反応(闘争・逃走反応)が備わった。
しかし、孤独感は一過性ではなく、慢性的だ。ひっきりなしにストレス反応が起こることで、今度はその反応が老化を促進する有害な力として作用してしまっている。
孤独感のジレンマ
孤独感の解決が難しいのは、あるジレンマがあるからだと本書はいう。
孤独感から抜け出すためには、少なくとも一人は協力者が必要となる。しかし孤独感が長引けば長引くほど、人とつながりを持つのが難しくなる。
他者に対して敵意や、憂鬱、失望を感じ、社会的能力が低下する。
コントロールしきれなくなると、苦痛をごまかすために過食や、アルコール摂取、性的関係をもつようになっていく。
こうした循環が回りだすと、どんどん他者に対して自己防衛的になっていき、他者もその人を好意的に見れなくなっていく。
そして孤独は人をさらに孤独にし、病気にしていくのだ。
自己制御力の低下
自己の情動、行動の調節能力は、人間を人間たらしめている大きな要素である。
こういった自己制御力が低下するといったいどの様なことが起きるのか。
本書の実験から、孤独感をもつと、タスクの実行能力が影響することがわかった。
機械的な課題をこなす際は、能力は落ちることはなかったが、中程度に難しい数学のタスクなど、高次のプロセスにだけ害を及ぼした。
また、別の実験では、社会的な断絶感を持たされると、食欲をそそるように身体が変化するという実験結果もでた。
さらに自己調整が効かないため、美味しいと思わなくてもたくさん食べてしまう傾向が多かったという。
孤独感を感じたときに、その痛みを和らげるために糖分や脂肪分を脳の快楽中枢に送り込もうとするのは不思議ではない。
疎外感を持たされた被験者は、他者に対して厳しい評価を与え、見知らぬ人を助けるのに消極的になり、物事を先延ばしにする傾向もあったという。
孤独が続くと、どんどんそこから抜け出すのが難しくなっていく。
利己的な遺伝子と社会的な動物
そもそもなぜ「他者志向」の行動が生まれるのか
アリの中には、巣を守るために自爆するアリもいれば、食糧を貯蔵する容器として一生天井にぶら下がって生涯を終えるアリもいる。
こういった働き蜂には、子孫を残す能力がないのに、なぜこういった社会的な絆に対する遺伝の形質が引き継がれるのか?
答えは、自然淘汰は個体レベルで起きるのではなく、遺伝子レベルで起きるところにある。
利他的な行為を駆り立てる遺伝子を持った個体の生存率や繁殖率が少しでも上がるなら、そういった特性は少しづつ広まっていく。
たとえ個体レベルでは犠牲になった様に見えても、遺伝子レベルでは生存率は高まる。
「利己的な遺伝子」の著者、リチャードドーキンスは、DNAにとって個体は増殖するための入れ物でしかなく、個々の生物の生存には関心がないという点を強調した。
人間という種はなぜここまで社会的な動物になったのか
自然淘汰
原始時代、狩猟採集民が暮らしの状況はとても過酷で、個人の適応度を落とす行動はどんなものに対しても、自然淘汰が働いた。
脅威は周囲の動植物から生じるものではなく、周りの人間になっていったとき、より強い進化的適応を迫られた。
相手の心を読み、ときには相手を騙し、信頼し、お互いに平和を維持できる力が必要とされ、適応できる遺伝子が生き残っていった。
他者の思考や感情を感じ取る必要があったため、社会的認知、社会的情動などが発達していった。
性淘汰
動物によっては、所構わず交尾してたくさんの子供を産ませて生き残りの確率を増やす、という作戦をとっているが、哺乳類はそうは行かない。
子供がうまれてから一人前になるまでに、かなりの時間とエネルギーをその子供に投資しなければならない。
そのため子供が一人前に育てるために、女性と男性はより強固な絆を作る必要がでてきたのだ。
そのためには社会的な能力を伸ばす必要が出てくる。
孤独感と文化の影響
孤独感は遺伝的特性や個人的特性と合わせて、文化によっても影響が出る。
結婚に関する概念、友情の捉え方に関する概念などが国によって変わってくれば、孤立しているかどうかの基準も変わってくる。
そうして文化ごとの概念が混じってくると、さらに孤独感は複雑になっていく。
本書によると、人間は三つの側面から「自己」を見るという。そしてこの三つの一つでも欠けていくと、孤独感を覚え始めていく。
- 個人的な自己:身長、体重、運動神経、好み、個人的嗜好など。他者は関係しない
- 社会的な自己:周りの人の関係における自分。PTAの会合に行けば、「〇〇君のお母さん」になるし、職場に行けば、「〇〇さんの奥さん」に変化する。他者なしでは存在しない自分
- 集団的自己:特定の民族集団、国家、会社、組織、チームにおける自分。これも他者なくしては存在しない。
孤独感と健康
本書では、様々な統計結果を通して、孤独感が健康に害を及ぼす経路が主に5つあることを示唆している。
- 健康に関する行動:孤独感が強いと、運動時間が少なく、食事でも脂肪摂取の割合が多かった
- ストレス要因に直面する:中高年の調査で見ると、孤独感の強い人の方が生活の中で現在抱えているストレス要因が多かった
- ストレスの認識と対処法:若者であれ高齢者であれ、孤独を感じない人より、毎日の生活のストレスがより厳しいと感じていた
- ストレスに対する生理的反応:「闘争・逃走反応」が常に働き続け、絶えず身体に生理的にネガティブな変化を起こす
- 急速と回復:孤独感を感じると、眠りに落ちるまで時間がかかり、眠りの質も浅く、日中の疲労感も大きい
まとめ
孤独は、痛みによって危険を避けるよう身体が発達したのと同じく、社会的孤立を避けるために孤独感が発達した。
孤独感によって自己制御機能やコミュニケーションの能力が失われていき、孤独を埋めるために単純な欲求を満たそうとする。
すると健康に害が出たり、他人を余計に避けたり、するようになり、余計に孤独を抜け出すのが難しくなる。
本書の一部をピックアップしてまとめた。
孤独感は非常に複雑でいろいろな要素が絡み合い、心が健全でなくなることで、身体の影響にも強く出るということもよく分かる。
心身ともに満たされた状態にあるために、孤独とは何かを考えるきっかけになる本。