私たちの生活にはお金というツールは欠かせない。
社会を繁栄させるために、人類はお金というツールを作り、お金をうまく回すための仕組みを作り出してきた。
ここではお金をうまく回すための仕組みである金融を歴史や起源から見て、役割を理解していきたい。
金融とは?
お金の余っているところから必要なところへお金を融通する(お金を貸したり借りたりやりとりする)こと。
金融によって世の中に何がもたらされたのか?
Allen & Yago (2014)は、金融の発展は人類の経済活動への参加の機会を拡大し、社会を民主化してきたと述べる。
経済の民主化
金融によって、未だないサービスを作るベンチャー企業を世に送り出すことができる。
また、歴史から見ても住宅ローン、株式市場、取引所の創設など様々な金融のシステムができたことで、色々な人が住宅を所有したり、株券を買うことで企業の一部を所有することができるようになった。(1)
経済成長
金融の発展は経済成長に対して高いプラスの相関があるといくつもの研究が出ている。(1)
利害関係の調整
金融が有効に機能すれば、生産者や消費者、企業所有者、非雇用者、投資家や債権者の利害を調整できる。(1)
従来これらのプレイヤーは経済活動上の利害が異なるので、うまくやっていけないことの方が多い。(1)
農耕社会から生まれた徴税制度
では金融はどのようにして発展していったのだろうか。
人類の歴史において、農耕社会になったときには、すでに富の分配の仕組みがあったとされる。
農耕社会になり、収穫が増えて自分たちが食べる以上の余裕が生まれ、農民の他に食料生産に直接従事しない神官や戦士、職人、商人などが養えるようになると、穀物などを一旦集積・貯蔵して再分配の必要性が生まれ、徴税制度が始まった。(3)
利子の起源
紀元前1792年から1750年、バビロニアを統治したハンムラビ王が発布した法典の中にはすでに貸借の利子率の規則があった。(3)
貨幣が存在する前から、利子という概念は先に存在していた。
利子とは?
お金を借りた時に支払う対価のこと。例えば金利1%で100万円を借りたとすると、1年後には101万円を返さなければならない。
利子の起源:なぜ利子はあるのか?
利子の起源について、板谷(2013)は貨幣以前の貸し借りの対象であったであろう子牛や小麦の例を挙げている。
子牛や小麦は自然に増えていくのだから、借りた牛が子を産めば、生まれた子牛をつけて返さなければならないし、また小麦を借りれば、収穫時には借りた分に利息をつけて返さなければならない。
貸した側は貸した分収穫の機会が失われたことになる。なのでその分の埋め合わせとして利子が生まれたとされる。(3)
「資本」という概念の登場
古代では商品は物物交換または金銀銅その他の金属の延べ棒と引き換えに取引され、紀元前1000年前のメソポタミア、エジプトでは習慣になっていた。(1)
しかしこの時代に資本を利用できるのは支配人や僧侶、職人、商人に限られ、人々の大多数はエジプトやメソポタミアが所有する土地を耕作する小作人だった。(1)
小作人にとっての財産は土地なので、金属の延べ棒のように、財産を蓄積するという概念がなかった。(1)
農耕社会が始まって様々な物が交換されるようになってから、「資産・資本を蓄積する」ということが可能になり、ここから不平等も生まれていくことになる。
資本とは?
資本は経済学、会計学など分野によって定義が異なるので一括でまとめるのは難しい。
- 経営:事業を始める元手の資金
- 経済→生産三要素の一つ:土地、労働、資本
- 会計→総資産・純資産・株主資本・資本金などの総称
など様々な意味がある。
貨幣や紙幣の鋳造
史上初の硬貨は、紀元前650年ごろにアナトリア西部のリュディアの王によって作られた。(4)
なぜ貨幣は生まれたのか?
今まで物物交換で成り立っていた経済から、なぜ人類は貨幣というものを作り出したのだろうか?
貨幣には以下の利点があるために発明されたというのが定説としてある。
- 交換をより簡単にする
- 富を蓄えることを可能にする
- 持ち運びを容易にする
交換をより簡単にする
物物交換を行うにあたってでてくる問題を、貨幣は解決してくれる。
- 交換レートを全て覚えないといけない
物物交換だと、りんごを持っている人は、「りんご1個=ブドウ○個」「りんご1個=魚○個」というように全てのものに対して交換レートを覚えていないといけない。貨幣なら、値段さえ覚えておけばよい。
- いつも相手が自分の持っているものを欲しいとは限らない
相手がいつもりんごを欲しいとは限らない。相手は肉が欲しいのかもしれない。貨幣であれば、相手ももらった貨幣を使って好きなものを交換できる。
- 細かく分けられない
例えば「牛一頭=豚二匹」という交換レートがあったときに、自分は豚が一匹だけ欲しいときはうまく交換が成立しない。
値段に換算すればうまく半分に分けて交換できる。
富を蓄えることを可能にする
貨幣によって富を蓄えるということも可能になる。
いちごのように短時間しか保存がきかなかったり、穀物のように何年も保存できるが巨大な倉庫が必要だったりネズミやカビやその他災害から守る必要も出てくる。(4)
貨幣であれば、貝殻であろうと、紙だろうと、こうした保存の問題を解決する。
持ち運びを容易にする
貨幣のない世界では、例えば裕福の農民であれば彼らの財産は田んぼや家になる。土地などは持ち運びができないが、貨幣と交換できれば、自分の財産を持ち運ぶことができる。
実際に7世紀から14世紀は、ユーラシア規模の交易が盛んに行われ、商人がお金と共に長い移動を必要とするようになったために、持ち運びのしやすい為替、小切手、紙幣が普及していく。(5)
「お金」を軽量化し、安全を守る必要から為替、小切手が盛んに使われた (5)
オプション取引の誕生
貨幣の初めての製造から程なくして、現在のデリバティブの「オプション取引」として知られる取引の事例もすでに古代ギリシャ時代に生まれている。
オプション取引の起源については、ギリシャ時代のタレス(紀元前624年頃 - 紀元前546年頃)のオリーブの話が有名だ。
オプション取引とは何か?
オプションとは、ある金融商品をあらかじめ決まった日に前もって決めた価格で売買できる権利のことを言う。
オプション取引の起源
タレスはある年のオリーブの豊作を予測し、手付金を払って村中のオリーブ搾油機の使用権を予約した。
収穫の時期になるとタレスの予想は的中した。収穫した豊作のオリーブから油を絞るために、搾油機をもっていない農民によって需要が大きく集まり、搾油機の使用料も高くなり、タレスは大儲けをしたという。(3)
保険の始まり
紀元前300年ごろになると「冒険貸借」というものが登場しており、保険のような仕組みもすでに出来上がっていた。
古代ギリシャが地中海の交易・海上貿易で発展していくようになると、荷主と船主で損害を負担しあう仕組みが生まれていった。(6)
保険とは何か?
現在では日常生活で起こる様々なリスクに備える制度であり、多数の人々が保険料を出し合って相互に保証する仕組み。
保険の分野
保険には三つの分野がある。
- 第一分野(生命保険)
人の生存または死亡に関し、一定額の保険金を支払うことを約し、保険料を納める保険。
例:定期保険、終身保険、養老保険など
- 第二分野(損害保険)
偶然な事故によって生じる損害を埋めあわせることを約し、保険料を納める保険。
例:火災保険、自動車保険、賠償責任保険、海上保険など
- 第三分野
身体の傷害、病気、介護に関して一定額の保険料を納める保険。
例:傷害保険、医療保険、がん保険、介護保険など
財産権の確立
財産を貯めることは可能になったが、その財産を守ってくれる所有権がなければ、権力者に財産が奪われてしまう。
国家権力や権力者に勝手に没収されてしまうような場所では、お金を稼ごうとするモチベーションも下がってしまう。
個人の財産権はハムラビ法典などにも既にあったが、ローマ法によって商業的な財産権が法制化された。(3)
債券の始まり
12-13世紀頃、十字軍遠征からマルコ・ポーロの時代に、商業の盛んだったヴェネチアをはじめとしたイタリア北部の都市国家で、政府が債券を発行したのが最初だとみられている。(7)
債券とは何か?
債券とは、国や政府・地方公共団体、企業などが、資金を投資家などから借り入れるために発行する有価証券の一種。
現在では国債、政府機関債、地方政府債、エマージング債券など様々な債権がある。
なぜ債券が生まれたのか?
中世以前、ヨーロッパでは戦争があると国王がお金を借りることが多かった。しかし戦争で借りたお金を返すには戦争に勝って略奪や賠償金をとって返済するしか方法はなく、引き分けや、勝っても収穫のない戦争では借金は返せなかった。(3)
するとたとえ国王が相手でもお金を貸したいとは思わなくなる。そこで国王個人ではなく、政府や議会などの組織がお金の返済を約束し、債権を発行するという方法がとられるようになった。(3)
「銀行」の発明
ヨーロッパの銀行の起源に関しては、12世紀後半から14世紀にかけてのイタリアの諸都市だとされる。(8)
預金や貸付、為替に小切手などの銀行業務が行われていた。(3)
銀行の役割とは?
銀行とは預金、決済、貸出などを行う役割を持っている。
- 預金:安全にお金を預かる。預ける人は盗難などの心配がない
- 貸出:預かっているお金を別の個人・企業・国・地方公共団体に貸し出す
- 決済:振り込み、口座振替、公共料金支払い、小切手、ATM、スマホ決済など、いつでもどこでも支払いや資金受取をより柔軟にできるようにする
近代的な銀行の創設
スウェーデン国立銀行の前身であるストックホルム銀行が1661年にヨーロッパで初めて国家が認めた紙幣(銀行券)を発行する。(9)
しかしなぜ人々は何も価値もなさそうな紙をお金として扱うようになったのか?
ここには「信用創造」という言葉がキーワードになる。
信用創造
近代的な銀行の機能として、「信用創造」という機能がある。
これにまつわるストーリーに1600年代のイギリスの「ゴールドスミス説」というものがある。
17世紀のイギリスにはゴールドスミス(金匠)という金を預かる商売をする人たちがいた。
最初は金匠達は金の預かり証を発行して保管量を得ているだけだったが、そのうち一定の金は引き出されずそのまま保管され続けていることに気づく。
そこで金匠達はこの引き出されない金を使って、貸付業務を始めることになる。人から預かった金を元に金匠手形を発行して利子を取ることで大儲けした。
金匠手形は人々が手形を信用できなければ意味をなさないが、ちゃんと金と交換できるという信用の元に手形を使った支払いにまで信用が発展したことで、金匠は手形をさらに発行して儲けるようになった。
こうして在庫証明というそれ自体何の価値もない紙切れが、金と交換できるという信頼を得たことによって、支払いにまで使える紙幣に変化した。
お金として扱われるものは素材はなんでも良いが、「信用」が付加されるかどうかが重要になる。
大航海時代の航海の初期資金を提供するスポンサー
15世紀半ばから17世紀半ばは大航海時代と呼ばれ、数々のヨーロッパの探検家がインド航路を航海したり、アメリカ大陸に到達し、世界の情勢がガラッと変わる時代になる。
この大航海時代に移るにあたって、航海の初期資金を提供するスポンサーはとても重要な存在だった。
未知の海に乗り出すということは、帰還の保証のないハイリスクの航海のために多額の資金を提供するということであり、スポンサーにとってはとてもリスクのあるものだった。
かといってスポンサーなしで個人の力では、船や人件費、設備費など巨額な額を用意することは到底不可能。スポンサーの決断によって大航海時代が生まれたとも言える。(9)
現代でもベンチャーキャピタルのように未上場企業に対して出資を行う機関などがあるが、常にリスクがありながらも資金を出す組織や投資家がいることで、新たな世界が開かれてきた。
ベンチャーキャピタルとは
ベンチャー企業やスタートアップ企業など、高い成長が予想される未上場企業に対して出資する投資会社のこと。
資本主義の誕生
産業革命と同時に資本主義が生まれる。
銀行や投資家が投資し、事業家が事業で利益を出し、投資家に返済することで投資家も利益を得ることができ、またその利益を投資に回し...というサイクルができるようになる。
株式会社の誕生
1602年に世界で最初の株式会社、オランダ東インド会社が設立される。
設立された当時は大航海時代であり、航海には大きなビジネスチャンスがたくさん眠っていた。しかし航海のコストは高く、無事に帰還できないことも多々あった。
さらにこのときの株主は無限責任を追っており、事業で失敗して生まれた負債を全て負わなければいけない状態だった。(3)
株主の責任が有限責任となり、出資した金額以上の責任を負わないという決まりになったのが転機になった。
無限責任の時よりは気軽に投資家がお金をだせるようになり、有限責任の決まりのもと、オランダ東インド会社が設立され、多くの出資金が集まるようになった。
株式会社とは
株式を発行してお金を集め、そのお金を用いて経営を行う会社。
株式を持つとどうなるのか?
お金を出して株式を持つことで、以下の権利を持つことができる。
- 会社が利益をあげたときに、配当を得られる
- 株主総会への参加(会社の経営について影響力を持つ)
証券市場の誕生
同じく1602年にオランダにアムステルダム証券取引所が設立されているが、これが世界最古の証券取引所だとされる。(10)
証券とは?
証券とは財産についての権利や義務を表す株券や債権のことをいう。
大きく分けて有価証券と証拠証券に分けられる。
証券取引所とは?
株式や債券、投資信託などの有価証券を売り買いする場所。
証券取引所で売買されている株式等は、証券取引所に上場されているものだけであり、上場するためには証券取引所の承認が必要になる。
なぜ証券取引所ができるのか?
有価証券を買いたい人と売りたい人を繋げ、取引をスムーズに成立させる役割を持っているから。
株式市場の発展
1602年の東インド会社が航海の資金を集めるために株式が発行されていたが、18世紀後半から19世紀にかけてはアムステルダムからロンドンに金融の中心地が移るようになる。
イギリスでは七年戦争、アメリカ独立戦争、ナポレオン戦争など大きな戦争が続き、さらに植民地開拓に伴って鉄道や運河の建設、鉱山やプランテーションの開発など大規模プロジェクトが相次ぎ、大量の国債が発行された。(11)
さらに19世紀にはアメリカで鉄道、鉄鋼、石炭産業が新しい産業経済を支えるインフラとして勃興し、広大な資金需要が生まれる。特に大量の投資と労働力の投入が求められる鉄道には、かなりの外部調達資金が必要だった。(3)
こうした産業のために多くの株式や社債が大量に発酵されるようになり、1817年にできたニューヨークの証券取引所が大いに賑わった。(11)
20世紀は自動車、ゴム、石油産業、21世紀はIT産業などが盛り上がると同時に株式市場も銘柄がどんどん増えていく。
江戸時代の米市場
江戸時代の日本では堂島米市場にて米の取引が盛んに行われ、米切手という証券のようなものを通じて米を売買する市場もすでに生まれていた。
-
稲作の歴史:稲作からみた日本の成り立ち
米と日本は深い関わりがあり、単に食料としてだけでなく、経済や文化に大きな影響を与えてきた。そんな稲作と日本の関係性について見ていく。
続きを見る
ファンドの登場
ファンドの一つである投資信託の原型が作られたのが1800年代のイギリスになる。(12)
1800年代は産業革命を背景に工業生産が伸び、世界に植民地を広げて海外へ投資が広がっていく時代だった。海外への投資には巨額の資金必要で、外国の事情についての高度な知識が必要になるためこのような投資ができるのは一部の資本家に限られ、個人では無理だった。
そこで個人でも参加できるようにと、多くの人々が少しずつお金を出し合って、深い知識や豊富な経験を持つ人に投資を任せる方法が生み出された。(12)
これが投資信託の原型になる。
ファンドとは?
複数の投資家から資金を集め、運用の専門家が株式や債権に投資・運用し、その儲け分を投資家それぞれの投資額に合わせて分配する仕組みの金融商品のこと。
投資ファンドの機能
投資ファンドは以下の三つの機能を果たしている(13)
- 個人投資家・機関投資家にとっての資産運用手段の多様化
- 企業にとっての資金調達手段の多様化
- 企業の成長や再生
テクノロジーと金融
テクノロジーによって金融は大きく変わり、ファイナンス(Finance)とテクノロジー(Technology)を合わせたフィンテック(Fintech)という分野も登場している。
これによってお金の融通がさらに柔軟になっている。以下はフィンテックの一例。
- スマホ決済・送金 : LINE pay / Paypayなど
- 会計のクラウドサービス:Freee / マネーフォワードクラウドなど
- 個人の財務管理:Moneytree / Zaimなど
- スマホで加入できる保険
- 仮想通貨
- ブロックチェーン
- ソーシャルレンディング
- クラウドファンディング:Campfire / Readyfor / Makuakeなど
注: (1) Allen & Yago (2014) (3) 板谷 (2013) (4) Harari (2018) (5) 出口 (2016) (6) 損害保険の歴史~はじまりは海上貿易から~ (7) 債券のルーツを知ろう ~中世の国王の借金問題がきっかけ!? (8) 宮崎 (2011) (9) インフォビジュアル研究所 (2017) (10) 百年から存在していた!?「証券取引所」の歴史 (11) 世界の株の歴史 (12) 投資信託はいつ生まれた? (13) 岡林 (2014)
参照: Allen, F., & Yago, G. (2014). Financing the Future: Market-Based Innovations for Growth(フランクリン・アレン, グレン・ヤーゴ『金融は人類に何をもたらしたか―古代メソポタミア・エジプトから現代・未来まで』 空閑裕美子訳 藤野直明監修 東洋経済新報社) 板谷敏彦 (2013). 金融の世界史―バブルと戦争と株式市場― 新潮選書 出口治明 (2016) 「全世界史」講義 教養に効く!人類5000年史 新潮社 Harari, Y. (2018). Sapiens: A Brief History of Humankind. Harper Perennial; Reprint edition.(ユヴァル・ノア・ハラリ 『サピエンス全史 文明の構造と人類の幸福』 柴田裕之訳 河出書房新社) インフォビジュアル研究所 (2017) 図解でわかる ホモ・サピエンスの秘密 太田出版 宮崎正勝 (2011). 知っておきたい「お金」の世界史 角川ソフィア文庫 岡林秀明 (2014). 図解入門ビジネス 最新投資ファンドの基本と仕組みがよーくわかる本[第3版] 秀和システム