旅館業や民泊の許可に必要な法規について、定義や分類、さらに歴史的変遷を整理する。旅館業法や住宅宿泊事業法の違い、営業許可の取得プロセスからサービス提供に伴う特別な許可までを整理し、法制度を振り返る。
宿泊業の全体像
まず初めに宿泊業の全体像を見ていきたい。総務省の「日本標準産業分類」によれば、宿泊業は以下のように定義している。
宿泊業とは,一般公衆,特定の会員等に対して宿泊を提供する事業所をいう
大分類M-宿泊業,飲食サービス業
また、宿泊業はその提供する宿泊形態やサービス内容によって細分化される。日本標準産業分類による「宿泊業」のカテゴリーを見ると「管理,補助的経済活動を行う事業所」「旅館,ホテル」「簡易宿所」「下宿業」「その他の宿泊業」というように分類されている。
宿泊業の中での旅館業の位置付けと旅館業の分類
次に、宿泊業の中で「旅館業」がどのように位置づけられているのかを見てみる。「旅館業法」の定義によれば「旅館業」とは「旅館・ホテル営業、簡易宿所営業及び下宿営業」を含むとされ、多くの旅行者はこうした枠組みの中の宿を利用する。以下は「旅館業」の定義となる。
第二条 この法律で「旅館業」とは、旅館・ホテル営業、簡易宿所営業及び下宿営業をいう。
旅館業法 第2条
日本標準産業分類をもとに旅館業の法律範囲を表で整理すると以下の通り。
この「旅館業」に当てはまる旅館・ホテル営業、簡易宿所営業及び下宿営業を詳しく見てみる。総務省が所管している「日本標準産業分類」では、この3種類のカテゴリーについての事例を具体的に示している。
「旅館業」分類名 | 定義 | 事例 |
---|---|---|
旅館・ホテル | 主として短期間(通例,日を単位とする)宿泊等を一般公衆に提供する営利的な事業所 | シティホテル・観光ホテル・ビジネスホテル・駅前旅館・割ぽう旅館・民宿 |
簡易宿所 | 宿泊する場所が主として多数人で共用する構造及び設備であって宿泊等を一般公衆に提供する営利的な事業所 | ベッドハウス・山小屋・カプセルホテル・民宿 |
下宿業 | 主として長期間(通例,月を単位とする)食事付きで宿泊を提供する事業所又は寝具を提供して宿泊させる事業所 | 下宿業 |
こうした3つの業態の違いは、宿泊業のサービス形態の多様性を示している。厚生労働省が定める「構造設備基準」により、各業態ごとに詳細な施設要件が設けられており、部屋の広さやフロントの設置基準、入浴設備の要件などが明確化されている。
簡易宿所営業 | 旅館・ホテル営業 | |
---|---|---|
客室床面積 | 延床面積33㎡以上 (宿泊者の数を10人未満とする 場合には、3.3㎡に当該宿泊者の数を乗じて得た面積以上) | 7㎡以上/室 (寝台がある場合は9㎡以上/室) |
玄関帳場(フロント) | 規制なし(国の法令上の規制はないが、条例で基準化しているケースがある) | 宿泊しようとする者との面接に適 する玄関帳場(フロント)または玄関帳場代替設備を有すること |
入浴設備 | 当該施設に近接して公衆浴場がある等入浴に支障をきたさないと認めら れる場合を除き、宿泊者の需要を満たすことができる適当な規模の入浴 設備を有すること | 同左 |
換気等 | 適当な換気、採光、照明、防湿及び排水の設備を有すること | 同左 |
その他 | 都道府県(保健所を設置する市又は特別区にあっては、市又は特別区)が 条例で定める構造設備の基準に適合すること | 同左 |
民泊の「住宅宿泊事業法」と「旅館業法」の違い
近年、民泊と呼ばれる新しい宿泊形態が登場し、注目を集めている。この「民泊」は、従来の「旅館業法」とどのような違いがあるのか。
まず、民泊とは「住宅宿泊事業法」に基づく宿泊形態のことであり、従来の旅館業法で規定される「旅館・ホテル営業」「簡易宿所営業」「下宿」などの既存のカテゴリーには含まれない新しい宿泊サービスである。この新しい宿泊形態は、観光客やビジネス客が急増する中、特に都市部や観光地で住宅の空き部屋を利用した滞在サービスとして普及しつつある。
では、民泊の営業形態について、「住宅宿泊事業法」ではどのように定義されているのだろうか。この法律によると、民泊(住宅宿泊事業)とは、旅館業法第三条に規定される「営業者以外」の者が、宿泊料を受け取って住宅に宿泊サービスを提供する事業を指し、宿泊提供日数が年間で180日を超えないことが条件とされている。
この法律において「住宅宿泊事業」とは、旅館業法(昭和二十三年法律第百三十八号)第三条の二第一項に規定する営業者以外の者が宿泊料を受けて住宅に人を宿泊させる事業であって、人を宿泊させる日数として国土交通省令・厚生労働省令で定めるところにより算定した日数が一年間で百八十日を超えないものをいう。
住宅宿泊事業法 第一条
「住宅宿泊事業法」と「旅館業法」では法律の目的も異なる。旅館業法では公衆衛生に焦点を当てているのに対し、住宅宿泊事業方は観光客の来訪や滞在を促進すること、これにより影響を受ける国民生活の安定と国民経済の発展に寄与することが特徴となる。なので旅館業法では近隣住民とのトラブル防止措置はいらないが、民泊では事業者の苦情対応や、ゲストが騒音迷惑行為を行わないようにするために説明義務が課されている。
第一条この法律は、旅館業の業務の適正な運営を確保すること等により、旅館業の健全な発達を図るとともに、旅館業の分野における利用者の需要の高度化及び多様化に対応したサービスの提供を促進し、もつて公衆衛生及び国民生活の向上に寄与することを目的とする。
旅館業法 第一条
第一条この法律は、我が国における観光旅客の宿泊をめぐる状況に鑑み、住宅宿泊事業を営む者に係る届出制度並びに住宅宿泊管理業を営む者及び住宅宿泊仲介業を営む者に係る登録制度を設ける等の措置を講ずることにより、これらの事業を営む者の業務の適正な運営を確保しつつ、国内外からの観光旅客の宿泊に対する需要に的確に対応してこれらの者の来訪及び滞在を促進し、もって国民生活の安定向上及び国民経済の発展に寄与することを目的とする。
住宅宿泊事業法 第一条
旅館業法と住宅宿泊事業法の詳細の違いについては、国土交通省の民泊制度ポータルサイト「minpaku」では、以下のように違いを挙げている。
旅館業法(簡易宿所) | 住宅宿泊事業法(民泊) | |
---|---|---|
所管省庁 | 内閣府 (厚生労働省_ | 国土交通省 厚生労働省 観光庁 |
許認可等 | 許可 | 届出 |
住専地域での営業 | 不可 | 可能 条例により制限されている場合あり |
営業日数の制限 | 制限なし | 年間提供日数180日以内 (条例で実施期間の制限が可能) |
宿泊者名簿の作成・保存義務 | あり | あり |
玄関帳場の設置義務(構造基準) | なし | なし |
最低床面積、最低床面積(3.3㎡/人)の確保 | 最低床面積あり (33㎡。ただし、宿泊者数10人未満の場合は、3.3㎡/人) | 最低床面積あり (3.3㎡/人) |
衛生措置 | 換気、採光、照明、防湿、清潔等の措置 | 換気、除湿、清潔等の措置、定期的な清掃等 |
非常用照明等の安全確保の措置義務 | あり | あり 家主同居で宿泊室の面積が小さい場合は不要 |
消防用設備等の設置 | あり | あり 家主同居で宿泊室の面積が小さい場合は不要 |
近隣住民とのトラブル防止措置 | 不要 | 必要 (宿泊者への説明義務、苦情対応の義務) |
不在時の管理業者への委託業務 | 規定なし | 規定あり |
宿泊以外のサービス提供に必要な許可
ホテルや旅館では、単なる宿泊サービスの提供にとどまらず、食事やアルコール飲料の提供、大浴場の設置なども行われることが一般的だ。これらのサービスを提供する際には、業務内容に応じて必要な許可を取得する義務がある。以下に主な許可の一例を挙げる。
許可の名前 | 内容 |
---|---|
飲食店営業許可 | 食べ物・飲み物を提供する |
酒類販売業許可 | お酒を提供する |
公衆浴場許可 | 宿泊客以外も利用できる大浴場を設置する |
宿泊業許可認可の流れ
旅館業を始めるためには、まず旅館業法に基づく営業許可を取得しなければならない。では、具体的にどのような手続きが必要なのだろうか。厚生労働省が平成30年6月に発行した「簡易宿所営業の許可取得の手引き」に沿って、その手順を紹介する。
- 自治体の旅館業法窓口に相談
- 相談にあたっては、施設の所在地、施設の図面、建築基準法への適合状況、消防法への適合状況(※)、マンション管理規約(民泊が禁止されていないかどうか) などの確認を求められることがある
- 書類の提出と手数料の支払
- 許可申請書、営業施設の図面、その他自治体が条例等で定める書類
- 保健所職員等による立入検査
- 構造設備基準を満たしているかの確認(自治体ごとに条例ごとに構造設備基準が定められている場合もあり)
- 保健所の許可
- 営業開始
旅館業法の歴史
明治時代にはすでに宿に対する規制があったようで、1887年明治政府は「宿屋営業取締規則」を発布し、治安の維持と衛生管理のために宿泊施設を厳密に規制し始めた。宿泊施設は「旅人宿」「下宿」「木賃宿」に分類され、自由な営業は許されなかった。特に、当時の「木賃宿」と呼ばれる低価格で提供される宿には定職をもたない者が集まり不衛生とされ、犯罪の温床になりかねないという懸念があったそうだ。
そして「宿屋営業取締規則」を引き継ぐ形で誕生したのが1948年に施行された「旅館業法」になる。宿泊施設の安全と衛生を強化し、利用者の多様なニーズに応えることを目指した。旅館とホテルが分離され、業態別に衛生基準が規定される一方、住宅政策の一部も担う存在として、下宿もこの枠に含まれることとなった。
旅館業法や宿泊関連の法律のこれから
その後、現在の宿泊施設は多様化しており、ネットカフェや民泊など新たな宿泊形態が続々と登場。旅館業法自体も法改正が繰り返され、2018年には旅館とホテルの区分が統合されるなど、規制はさらに現代化されている。宿泊業界の変化は法の整備を待たない。今後、時代の進展に応じて、宿泊に関する法もさらなる変化を求められる。
参照:
観光庁 - 民泊制度ポータルサイト - はじめに「民泊」とは
厚生労働省 - 民泊サービスを始める皆様へ~ 簡易宿所営業の許可取得の手引き~(平成30年6月改訂版)
内田彩・高橋祐次・山中左衛子(2022)「旅館の諸相とその変遷について」日本国際観光学会論文集
服部真和(2024) 事業者必携 改訂新版 記載例つき 民泊ビジネス運営のための住宅宿泊事業法と旅館業法のしくみと手続き