日本で流通しているスノーボードブランド・メーカーを年表にまとめ、各時代の背景とともに振り返る。時代ごとのトレンドや技術革新、カルチャーの交差を紐解きながら、日本のスノーボード市場の変遷を追っていく。
下記の年表は全てではないが日本で乗られているスノーボードブランドを一つの年表に収めた。(創業年が出てこなかったブランドは含めていない。)今後も随時追加予定。

聡明期(~ 1980)
スノーボードの黎明期は1960年代からと言っても良いだろうか。1963年にトム・シムスが開発したスキーボードや、1965年に誕生したスナーファーなど、スノーボードの原型となるプロダクトが次々と生まれた。1970年代に入ると、ディミトリー・ミロビッチによる冬用サーフボード「ウィンタースティック(Winterstick)」など、雪上でのサーフィンを目的としたボードが登場し、スノーボードの概念がより明確に形作られていく。(スノーボードの歴史)
そして、1970年代後半には、現在も日本で親しまれているスノーボードブランドが誕生する。この時代に創業されたブランドを以下に挙げる。
ブランド | 創業年 | 国 | 創業者 | 公式サイト | 歴史 |
---|---|---|---|---|---|
MOSS | 1971 | 日本 | 田沼進三 | 公式サイト | 歴史 |
SIMS | 1976 | アメリカ・カリフォルニア州 | Tom Sims | 公式サイト | 歴史 |
BURTON | 1977 | アメリカ・バーモント州 | Jake Burton Carpenter | 公式サイト | 歴史 |
GNU | 1977 | アメリカ・ワシントン州 | Mike Olson/Pete Saari | 公式サイト | 歴史 |
こうしたブランドが生まれる中1970年代の日本のスキーリゾートはどうだったかというと、高度経済成長による所得向上とレジャーの大衆化によりスキーをする人が増えていった時期でもある。1972年の札幌オリンピックでの日本勢の活躍や映画・雑誌の影響でスキー人気が高まり、交通インフラの発展とともにスキーツアーも拡大。宿泊施設として民宿やペンションが増え、農村の冬期雇用にも貢献した。自治体もスキー場開発を推進し、田中角栄の「日本列島改造論」も後押しとなった時代だ(スキーの広まり)
1980年代~
1980年代は徐々にスノーボードが浸透していった時代で、アメリカではバートン・スノーボードの創業者ジェイク・バートン・カーペンターの尽力によりスノーボードの普及が加速。当時、多くのスキー場ではスノーボードの滑走が禁止されていたが、リフト乗車の許可、安全基準の制定、スノーボーダー向けのガイドライン導入などの取り組みにより、アメリカを中心に急速に受け入れられていった。競技としての広がりも進み、1982年にはアメリカで初の国内選手権が開催され、翌1983年には世界選手権も実施。1985年には国際スノーボード連盟(ISF)が設立され、組織化が進んだ。¹⁾
日本ではどうだったかというと、1982年には日本では小倉貿易がバートンの代理店となり販売が開始され、1982年には日本スノーボード協会(JSBA)が設立され、全日本選手権などの大会も開催されるようになった時代である。しかし、日本では当時スキー人気が圧倒的であり、1980年代後半から1990年代にかけてスキー人口はピークの1800万人に達する一方で、スノーボードはまだマイナースポーツとみなされていた。
この時代に創業されたブランドを以下に挙げる。
名前 | 創業年 | 創業場所・拠点 | 創業者・会社 | Webサイト | 歴史 |
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SESSIONS | 1983 | アメリカ・カリフォルニア州 | Joel Gomez | Webサイト | 歴史 |
NiDECKER | 1984 | スイス | Henri and Cie Nidecker | Webサイト | 歴史 |
ELAN | 1987 | スロベニア | Rudi Finžgarや他9名 | Webサイト | 歴史 |
FANATIC | 1987 | ドイツ | – | Webサイト | – |
K2 | 1987 (*スキー製造は1962年から) | アメリカ・ワシントン州 | Bill Kirschner | Webサイト | 歴史 |
OGASAKA | 1987 | 長野県長野市 | 株式会社小賀坂スキー製作所 | Webサイト | 歴史 |
MORROW | 1989 | – | Rob Morrow | Webサイト | 歴史 |
1990年代~
1990年代初頭は音楽、ファッション、ダンスなどの領域で「ニュースクールムーブメント」が起こった時代。これはスノーボードでも例外ではなく、スノーボードが単なるスポーツではなくライフスタイルの一部として広がり、若者を中心に急速に浸透していった。
競技面では1990年に国際スノーボード連盟(ISF)が設立され、ルールの統一や競技会の整備が進行。こうした環境整備の流れの中で、1998年の長野オリンピックではスノーボードが正式種目として採用され、男女それぞれでパラレル大回転とハーフパイプが実施された。これにより、スノーボードは一気に世界的な注目を浴びることとなる。¹⁾ ²⁾
オリンピック採用はスノーボードにとって一つの転機でもあった。それまでカウンターカルチャーとしての側面を持っていたスノーボードは、メインストリームへと移行し、商業化が加速。同時に、日本ではバブル崩壊によるスキーツーリズムの停滞が進み、スキー人口が減少する中で、スキー場も多様化。モーグルやフリースキーを強化するスキー場や、子供向けのスキー施設が整備される一方で、以前はスノーボード滑走を禁止していたスキー場も、スノーボーダーの受け入れを開始するようになった時代でもある。(スノーボードの歴史)

そんな時代背景の中で生まれてきたスノーボードブランドを下記にあげる。
名前 | 創業年 | 創業場所・拠点 | 創業者・会社 | Webサイト | 歴史 |
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LIB TECH | 1990 | アメリカ | Mike Olson / Pete Saari | Webサイト | 歴史 |
NITRO | 1990 | アメリカ・ワシントン州シアトル | Thomas Delago / Sepp Ardelt | Webサイト | 歴史 |
NEVER SUMMER | 1991 | アメリカ・コロラド州 | Tracey and Tim Canaday | Webサイト | 歴史 |
RIDE | 1992 | アメリカ・ワシントン州レドモンド | Roger Madison / Tim Pogue / James Salter | Webサイト | 歴史 |
BC Stream | 1993 | 日本 | – | Webサイト | 歴史 |
TECHNINE | 1994 | アメリカ・コロラド州 | – | Webサイト | 歴史 |
YONEX | 1995 (*創業は1946年に木製品の製造販売) | 新潟県 | 米山稔 | Webサイト | 歴史 |
ZUMA | 1995 (*スキー製造は1953年から) | 長野県飯山市 | スワロースキー | Webサイト | 歴史 |
ARBOR | 1995 | アメリカ・カリフォルニア州 | Bob Carlson | Webサイト | 歴史 |
RICE28 | 1996 | 日本 | – | Webサイト | – |
SCOOTER | 1996 | 長野県長野市 | 小賀坂スキー製作所 | Webサイト | 歴史 |
DRAKE | 1997 (*1971年スキーブーツのインナーとスノーシューの開発・製造からスタート) | イタリア | Gianni Piva | Webサイト | 歴史 |
SALOMON | 1997 (*1947年スキーのエッジ製造からスタート) | フランス・アヌシー | François Salomon | Webサイト | – |
GENTEMSTICK | 1998 | 北海道ニセコ町 | 玉井太朗 | Webサイト | – |
Gray Snowboards | 1998 | – | – | Webサイト | – |
ALLIAN | 1999 | アメリカ・オレゴン州 | Ingemar Backman | Webサイト | 歴史 |
2000年代〜
2000年代に入ると、スノーボードは映像を通じた表現手段としても発展していった。2003年頃にはVHSやDVDを通じてスノーボード映像が広く流通し、カルチャーの重要な要素となる。最盛期の2002年には日本国内のスノーボーダー人口が540万人に達し、この映像市場の拡大を後押しした。加えて、安価で高性能な小型デジタルビデオカメラの登場やパソコンによる映像編集の普及により、プロライダーだけでなくアマチュアライダーも独自の映像を制作し、スノーボード文化をさらに多様化させた。しかし2008年以降、DVDやCDなどの物理メディアの売上は急速に減少していく。³⁾ iphone(2007年)等スマホの普及、またFacebook(2004年) 、YouTube(2005年)、Twitter(2006年)、Instagram(2012年)といった動画配信・SNSプラットフォームの台頭により、映像コンテンツの消費形態が大きく変化した。
競技スノーボードの進化も続き、2006年のトリノオリンピックでは「スノーボードクロス」が新種目として追加。
このように、2000年代はスノーボードがデジタル革命とともにカルチャーとしての広がりを見せる一方で、オリンピック競技としての地位も確立し、スポーツとメディアの両側面から新たな時代へと突入した時期となった。
そんな時代に生まれたスノーボードブランドが下記になる。
名前 | 創業年 | 創業場所・拠点 | 創業者・会社 | Webサイト | 歴史 |
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CAPiTA | 2000 | アメリカ・ワシントン州 | Blue Montgomery / Jason Brown | Webサイト | – |
HEAD | 2000 (*1947年には金属製スキー設計が開始される) | – | Howard Head | Webサイト | – |
Bataleon | 2001 | ノルウェー | Dennis Dusseldorp / Danny Kieber | Webサイト | – |
ROME SDS | 2001 | アメリカ・バーモント州ウォーターベリー | Paul Maravetz | Webサイト | 歴史 |
NOVEMBER SNOWMATERIAL | 2002 | 長野県長野市 | 株式会社小賀坂スキー製作所 | Webサイト | 歴史 |
SABRINA | 2003 | 株式会社ハスコ・エンタープライズ | Webサイト | ||
ROXY | 2003 | – | – | Webサイト | 歴史 |
011 Artistic | 2003 | 北海道 | – | Webサイト | 歴史 |
DINOSAURS WILL DIE | 2004 | カナダ・バンクーバー州 | Sean Genovese / Jeff Keenan | Webサイト | 歴史 |
amplid | 2005 | – | Peter Bauer | Webサイト | – |
DEATH LABEL | 2007 | – | – | Webサイト | – |
OJK | 2007 | 群馬県富岡市 | (有)岡田樹脂工業 | Webサイト | – |
JONES | 2009 | アメリカ・カリフォルニア州 | Jeremy Jones | Webサイト | 歴史 |
YES. | 2009 | カナダ | Romain De Marchi / David Carrier Porcheron / JP Solberg | Webサイト | – |
2010年以降〜
2010年代以降の動きを見ていくと、オリンピックでは2014年のソチ大会で「スロープスタイル」、2018年の平昌大会で「ビッグエア」が正式種目に追加され、エクストリームスポーツ、ストリートカルチャーの色が強かったこの二種が世界の公式な競技種目として選ばれた。一方映像表現では「GOPRO」「Insta360」「DJI 」といったアクションカメラの進化や、ドローンの普及が進むことによって映像表現を一変させ、誰もが高品質のコンテンツを制作できる環境が整うようになっていく。SNSも普及が進み、スノーボード映像も、個人がSNSを通じてライディングを発信する新たな時代へと移行していく。
こうした映像革命と並行して、気候変動への危機感もスノーボード界に影響を与えた。これを象徴するのが「Protect Our Winters(POW)」の発足だろう。POWは2007年にアメリカで誕生し、日本でも2019年に発足。⁴⁾ 降雪量の減少や気候変動がライディング環境を脅かすなか、雪を守るための動きが滑り手のコミュニティから広がっている。
またバックカントリーの新たなギアとしての「スプリットボード」も日本ではこの年代に普及し始めたといっても良いだろうか。EPIC SNOWBOARDING MAGAZINEの記事では、ユタ州の雪崩予報士であるブレット“カウボーイ”コバーニックにより、スプリットボードが1991年に生まれ、Voileの1994年の「DIYスプリットキット」をきっかけに様々な動きが生まれ、ライダー目線で設計されたスプリットボードを世に送り出し新たなマーケットを作り出したのがJones Snowboardsだと紹介している。
こうした時代背景の中で生まれたブランドを下記に挙げる。
名前 | 創業年 | 創業場所・拠点 | 創業者・会社 | Webサイト | 歴史 |
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SLASH | 2012 | – | Gigi Rüf | Webサイト | – |
UNIT mfg | 2012 | 日本 | – | Webサイト | 歴史 |
West | 2013 | スイス | Matt Rouiller / Michel Kropf / David Lambert / Ferdi Muragglia | Webサイト | 歴史 |
KORUA Shapes | 2014 | – | Stephan Maurer / Nicholas Wolken | Webサイト | – |
United Shapes | 2014 | スイス | Gray Thompson / Steven Kimura / Peter Sieper | Webサイト | 歴史 |
Public | 2015 | アメリカ・ミネソタ州 | Joe Sexton | Webサイト | – |
SPREAD | 2017 | 日本 | 尾川慎二 | Webサイト | |
Canary Cartel | 2018 | オーストリア | Christian Kirsch | Webサイト | – |
FNTC | 2018 | – | – | Webサイト | – |
SIN.snowboard | 2018 | 新潟県南魚沼市 | 木村 顕悟 | Webサイト | 歴史 |
SEASON Eqpt | 2020 | – | Eric Pollard / Austin Smith | Webサイト | – |
WHITE SPACE | 2022 | – | Shaun White | Webサイト | – |
White Blossome | 2023 | – | Foumarts合同会社 | Webサイト | – |
スノーボードギアの未来
歴史を振り返れば、サーフィンやスケートの影響、ニュースクールムーブメントの台頭、競技の多様化、SNSや映像技術の発展による発信スタイルの変化、さらには環境意識の高まりによる行動変容——こうした多様な要素が絡み合い、現在のスノーボードカルチャーは形成されてきた。これからの時代、スノーボードはどのように進化し、ギアは未来のゲレンデでどんな変貌を遂げるのか。その変遷を見届けていきたい。
参照:
1) スノーボード: オリンピックの歴史、ルール、最新情報 - International Olympic Committee
2) HISTORY - WORLD SNOWBOARD FEDERATION
3) スノーボード映像の世界 〜 映像で一攫千金が狙えたバブル時代 - 鬼塚智己, 株式会社 Global Japan Corporation
4) 団体概要 - 一般社団法人Protect Our Winters Japan
田嶋リサ(2021) スノーボードの誕生 なぜひとは横向きに滑るのか 春陽堂ライブラリー