2025年3月に行った北海道トリップ。その一部を記録として残していきたい。
スキーを通じて初めて北海道を意識したのは、「ニセコ」という言葉をウェブ上で見かけたときだったと思う。海外のスキーヤーたちが口を揃えて語る雪――“Japow”と称される極上のパウダースノー。その会話の中にはいつもニセコの名が登場し、「ニセコとはどんな場所なのだろう」と、次第に静かに、しかし確かに心が熱を帯びていったのを覚えている。
雪深い新潟での暮らしもまた今回の旅先に導かれるきっかけになったのかもしれない。世界有数の豪雪地帯である松之山での暮らしを通して、雪は単にスノースポーツを楽しむための舞台ではなく、暮らしそのものに深く結びついていることを痛感した。日々の生活の積み重ねの中で、雪はやがて暮らしの文化にまで繋がる存在であることを知った。
こうして暮らしの中で雪と密接に関わるようになるにつれて、「雪とは何か?」という根源的な好奇心が芽生え、アンテナが張られていたころに出会ったのが中谷宇吉郎という名前だった。
中谷宇吉郎は、日本で初めて人工的に雪の結晶を作り出すことに成功した物理学者であり、雪氷学の先駆者でもある。彼は雪を単なる自然現象としてではなく文化や詩情を宿すものとして捉え、研究者であると同時に、随筆家としても多くの人々に雪の魅力を伝えてきた人物だ。
彼が研究の拠点にしていた「旧白銀荘」という場所があり、その近くには吹上温泉保養センター「白銀荘」がある。そこは今や、スキーヤーたちが十勝岳や三段山へとバックカントリーに分け入る玄関口にもなっている。
スキーがメインの旅でもあったが、雪氷の科学者が雪を研究の場に選ぶ場所とはどんなところなのだろうととても興味がそそられた。北海道の旅は、まさにその旧白銀荘を目指すことから始まった。

車を降りた瞬間、凍てつく空気が肌を刺す。新潟で沢山雪ををみてきたつもりだったが、白銀荘の前に立ちついた時、空から舞い降りてくるその一粒一粒が想像を超える明瞭さをもって形を保っていたのがとても印象に残った。ウェアやスキー板にそっと降りてきた雪の結晶はその構造がはっきりと見え、その結晶がそのまま形を保ったまま降り積もっていく様だった。




中谷宇吉郎は、この雪を観察して何を感じていたのだろう。美しい六角形の構造や分岐の模様から降雪時の大気の状態を読み取り、見えない気象の世界を読み解けるという意味で「雪は天から送られた手紙である」という一文を残したのは有名だ。こうして白銀荘についてからいきなり北海道の雪を味わった後、まだ日が高く時間があったので早速三段山に登ってみることに。

幸運なことに登っている途中で陽が差し込み、雪の結晶がキラキラと光を返す。



こうして1日目は無事に終了。白銀荘からは噴煙を上げたかっこいい山の姿が見える。

翌日は別ルートを選択して十勝岳を目指した。登山口からしばらく進むと、すでにいくつかのトレースが枝分かれしており、それぞれが別々のルートを描きながら白い山肌に美しく線を残している。




途中で目的地に行くまでのルートに間違えたことに気づいたが、これが幸い。ちょうど行き止まりになった区切りの良い場所で天気も曇りだし、天候がかなり変化し出したために引き返すことに。結果的には真っ白で見えなくなる前の絶妙なタイミングで滑走に入ることができた。雪面の表情は刻一刻と変化し、視界が閉ざされる前に気持ちよく滑ることができた。



こうして、十勝岳・三段山エリアでの滞在は終了。ただスキーを楽しむだけでなく、雪そのものと向き合い、雪氷学者・中谷宇吉郎の足跡をたどりながら、この地に降る雪の美しさを体で感じることができた時間だった。
この地での滑りの余韻を身体に残したまま、次は旭岳へ向かった。