日本の地方にはふとしたところで、昔ながらの文化を垣間見れることがある。それはある日の除雪作業の時に訪れた。ある道沿いの雪庇落としを行うために待ち合わせ場所に集合していると、地域の方が昔ながらの除雪道具を持ってきた。「コスキ」というらしい。コスキを持ってきた地域の人いわくおじいさんの形見だといって残していたそうだ。
コスキとは日本の伝統的な除雪道具で、雪を切り分けて捨てるための道具だ。今こそスノーショベルやスノーダンプが普及し、プラスチック製やステンレス製など様々な素材で作られているが、昔の除雪道具はそれぞれの家庭で木材で手作りしていたらしい。今回は雪庇落としの作業で高いところの雪を落とすため、長い棒にコスキを括り付けて、突き刺すように使っていた。
やはり利便性を考えれば現在の道具の方が格段に使いやすくはなっているのだろうけど、人によって道具の作り方に色々こだわりがあるんだろうなと想像したり、使いこまれていく木の色など見ていると、普段の除雪道具とはまた違った魅力を感じてしまう。
ちょうど前日に越後妻有里山現代美術館MonETの冬企画展「北越雪譜アドベンチャー」が開かれており、見に行くことができた。北越雪譜とは越後魚沼郡塩沢(今の新潟県南魚沼郡)の縮商であった鈴木牧之が、豪雪地帯である越後魚沼の江戸後期の暮らし、方言、産業、雪に関して記録している書だ。
企画展の中には深澤孝史さんの「スノーダンプらぼ」という展示スペースがあり、時代ごとの除雪道具を実際にみたり、除雪道具の制作過程をムービーで見れる展示スペースがあった。道具の形が変化していき、素材も木材からステンレス・プラスチックなどに変わっていく様子が見てとれる。
除雪は雪国の暮らしに密接に関わっているもの。道具の裏側にも様々な工夫だったり、人々の知恵や努力が詰まっているのだろうと容易に想像できる。除雪道具で展示の一スペースができるぐらいだから、どのように除雪を行っていくかというのは特に重い雪質の中で暮らす人々にとっては一大関心なのだなと改めて感じる。そしてその移り変わりを実際の除雪現場で見ることができたのはなんだか感慨深い。
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除雪道具の移り変わりを目の当たりにして、今後の除雪道具はどのように変化していくのだろうとも感じる。もっと便利な素材が出てくるのだろうか。ロボットが出てきて除雪を代わりにやってくれる時代がくるのだろうか。それとも雪国のあらゆる地域が高齢化に耐えられなくなってどこか一箇所にまとまり、雪を自動的に溶かしてくれるインフラがもっと整って、各個人が除雪をすること自体なくなっていくのだろうか。
もしくは地球温暖化でそもそも雪がなくなってしまうかもしれない。いずれにせよ貴重な除雪文化を見ることができて良い1日だった。