慣行農業・有機農業・特別栽培の図解比較:それぞれの農法の特徴と歴史的な経緯

農業には慣行栽培、有機農業、特別栽培のカテゴリーがあり、それぞれの農法には特徴がある。それぞれの栽培方法にはどのような特徴があるのか?今後農業全体が目指すべき方向性はこの中から見出せるのか?それぞれの特徴や違いを歴史的な経緯も含めて見ていきたい。


農法の違い

農業で現在三つの代表的な栽培方法といえば、慣行栽培、有機農業、特別栽培があげられるが、この三つを簡単に比較してみると、以下のような違いがある。

  • 慣行と特別:特別栽培は化学農薬や化学肥料の使用量を減らすことを目的とする
  • 慣行と有機:有機栽培は、化学的に合成された肥料及び農薬を使用しないことを目的とする

三つの栽培基準を以下に図にしてみてみよう。「特別栽培」に関しては農林水産省の「特別栽培農産物に係る表示ガイドライン」を参照している。


「特別栽培」に関しては農林水産省の「特別栽培農産物に係る表示ガイドライン」を参照


慣行農業とは

慣行農業とはなんだろう?慣行農業には明確な基準はない。国や自治体、JAの指導に沿って農薬や肥料を正しく使用して行っている、従来から行われてきた農業の一般的なやり方が慣行栽培と言われている。

現代の農業で一般的に行われている栽培手法であり、慣行栽培では高収量を目指し、病害虫の管理や作物の成長をより良くするために化学的な製品や技術が利用される。

化学肥料や化学合成農薬などを使用し、効率的な農業生産を目指すのが慣行栽培と言える。


慣行栽培と特別栽培の違い

次に慣行栽培と特別栽培の違いについて見ていこう。特別栽培は、化学農薬・化学肥料を減らすことを目的として基準が作られた。しかしなぜ新たな基準が作られたのか?これは後述の「有機農業」の歴史にも関わってくる。



そもそもなぜ「特別栽培」基準ができたのか?

1970年代から有機農業は広まりを見せ、その結果として生産者が直接消費者に農産物を提供する「産消提携」という取り組みが生まれ、新たな流通経路が形成された。この流通の拡大により、「有機栽培」「減農薬」「無農薬」「自然栽培」「天然栽培」「微生物農法」など、さまざまな表示が登場するようになる。

しかしながらこれらの表示が消費者に誤解を招く可能性があるという懸念が生じたため、有機農産物の規格に当てはまらないが、減少した化学肥料や化学農薬を使用した栽培を指す「特別栽培農産物」の基準が設けられる。これによって、現在の「特別栽培農産物に係る表示ガイドライン」が策定された。

特別栽培や有機栽培が広がりをみせているのは、環境への負荷や食品の安全性への懸念が高まり、より持続可能で環境に配慮した栽培手法への関心も高まっている結果だと言える。


特別栽培農産物とは

では特別栽培によって産まれた「特別栽培農産物」とは何か。

農林水産省の表示ガイドラインによれば、以下の二つの基準をクリアした農産物が、「特別栽培農産物」として認定され、販売することができる。

  1. 「節減対象農薬」の使用回数が50%以下
  2. 化学肥料の窒素成分量が50%以下

特別栽培にも様々な表示方法があり、この中にいわゆる「無農薬」や「減農薬」などの表記も含まれる。以下はガイドラインによる表示ラベルの例になる。


農林水産省の表示ガイドライン参照


節減対象農薬とは?農薬の種類・基準について

上記で「節減対象農薬の使用回数が50%以下」とあるが、節減対象農薬とはなんだろうか?特別栽培農産物表示ガイドラインの中には農薬にもカテゴリー分けがある。



  • 節減対象農薬

「化学合成農薬」がいわゆる節減対象農薬としてみなされる。

  • 化学合成農薬以外

有機農産物JAS規格では使用不可だが、化学合成されていないと確認された農薬はこちらの分類に入る。

  • 有機農産物JAS規格で使用可能な農薬

有機農産物JAS規格では使用できる農薬が指定されている。

  • 特定防除資材

農作物、人畜、水産動植物に害を及ぼすことがないことが明らかなものが原材料となっているのが「特定防除資材」と言われる。


農薬の使用回数は成分数によってカウント

農薬の使用回数はどのように決まるのだろう?節減対象農薬の使用回数は成分数によってカウントされ、地域ごとに使って良い農薬成分数が決まっている。

新潟県における節減対象農薬使用回数及び化学肥料使用量の地域慣行栽培基準及び県認証基準」をみると、新潟県十日町市を例に挙げると節減対象農薬使用回数(成分回数)のうち、慣行栽培基準(回)は19回、県認証基準(回以下)は9回以下と定められている。

例として、2022年JA十日町の減農薬栽培事例をみてみよう。


2022年JA十日町の肥料・農薬予約申込書の減農薬栽培例を参照


上の例ではそれぞれの作業の段階において、除草剤・殺虫剤などの農薬の点数を計算した例になっている。


慣行栽培と有機栽培の違い

次は特別栽培の基準が生まれるきっかけともなった有機栽培を見ていこう。有機栽培は化学農薬・化学肥料を使用しないことを目的とする。



また少し有機農業の歴史について立ち返ってみたい。


有機農業の歴史

歴史的に化学農薬・化学肥料を見てみると、20世紀初頭から「農業の工業化」が始まり、1914年の第一次世界大戦時の軍事技術から多くの殺虫剤、除草剤、化学肥料が開発され、第二次世界大戦後、農業の生産性を高めるために化学農薬・化学肥料は大きな役割をはたした。

しかし、化学合成農薬の創生期には毒性の強い殺虫剤が多く使われ、中毒事故や、生態系に負を与える農薬被害もで始める。毒性の強い農薬が広まり農薬被害が出始めることで、安全な食べものを得るために有機農業を始める農家が現れ始めたのが日本での有機農業の始まりとなる。

1971年には日本有機農業研究会が創立し、ここで初めて有機農業という言葉が用いられるようになる。有機農業の歴史の詳細はこちらにも書いた。

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現在では国も「有機JAS」という認証制度を作成し、有機農産物の品質の保証を行っている。この制度がスタートしたのは2001年になる。


慣行と有機:目的の違い

慣行農業と有機農業は目的の違いを比較してみよう。慣行農業は先ほどの通り、生産量を高め、定規格・定品質の作物を作ることを目的とする。戦後、食糧難の時代には農薬や化学肥料で生産性を高める技術を導入していくことはとても大事なことだった。一方で有機農業はより良い土を作り、土壌の持続可能性を維持し、より良い自然を作りながら作物が取れることを目的とする。



比較してみるとどちらの農業も必要性があり、優劣の問題ではないことがわかる。戦後食糧不足の時代から今に至るまで、慣行農業で生産性を伸ばすことは人々に食糧を供給していくという意味でとても重要であり、人々の生活を支えている。

しかし今後環境を守っていくためには有機農業という手段も必要になってくる。それぞれの農業手段を今後の時代に合わせてどのように使っていくかを考えていくことはとても大事だ。


有機JASの認定基準

有機農産物のJAS規格に定められた生産工程が必要となる。農林水産省の「有機食品の検査認証制度」内のPDFにて詳細はチェックできる。


有機農業vs無農薬

これまでみてきた通り、有機農業は化学的に合成された肥料及び農薬を使用しないが、天然由来の農薬なら使っても良い。(有機農産物の JAS 規格別表 1・別表 2 にて使用可能な農薬が確認できる)ここが「無農薬」とは異なるところだろう。無農薬はガイドラインに見るならば「特別栽培」に分類される。無農薬なので農薬自体を使わない(もしくは「節減対象農薬」は使わずその他の農薬は使っている)栽培方法になる。



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