集落営農とは:集落営農の仕組み、利点や黒倉集落の取り組みをみる

私が農業でお世話になっている新潟県十日町市の黒倉集落では黒倉生産組合などを作って個人の農家が組織化し、中山間地域の農業特有の問題解決、地域の発展に向けて取り組んでいる。これは黒倉集落特有ではなく、現在の農業では、地域農業の発展や高齢化の対策など地域の問題解決や経営の問題解決のために農家が組織化している傾向があり、これを「集落営農」と呼ばれている。

集落営農とは何か、組織化のメリットは何があるのか。黒倉集落での体験に合わせて見ていきたいと考えたのが今回の記事をまとめた動機だ。


集落営農とは

集落営農とは、集落単位など地縁的にまとまりのある地域の農家が集まり、農業を共同で営むことをさす。


集落営農の組織はどのくらいあるのか

農林水産省「令和4年集落営農実態調査結果」を見てみると、集落営農による組織の数は少しずつ減少傾向にあるものの、法人の数は徐々に増えてきている。


農林水産省「令和4年集落営農実態調査結果」参照


集落営農の形

集落営農の組織化の上での形として、以下のような形がある。

  1. 法人(農事組合法人・株式会社など)
  2. 任意団体(広域活動組織)

任意団体は法人格は持たないものの、「多面的交付金事業」など公的資金の交付を受けながら地域の農業の発展を目指すことができる。

また、集落営農の役割分担の形にも様々な種類がある。例えば参加する農家で機械や施設を共有するための「共同利用型」、構成員の農家が機械や施設を使った作業を他農家から受託する「作業受託型」、構成員の農家が自分の役割・能力に応じて仕事を分担する「協働経営型」などに分類ができる。


島根県ホームページ「集落営農とは / 集落営農の定義・分類 /しまね集落営農の歩み / 農業法人設立マニュアル/ 集落営農型法人設立事例の図を参照して作成


個人農家、任意団体、法人によっての違いを、農業機械の所有、作業の実施者、農産物販売名義の3点で下記の図にまとめた。



組織化することのメリット

集落営農として組織化することでどのようなメリットが生まれるのだろうか。

  1. 作業の役割分担や農機の共同利用、情報の共有による経営の効率化
  2. 集落の農業担い手の確保・耕作放棄地の削減
  3. 交付金事業など行政の支援を受けられる


作業の役割分担や農機の共同利用、情報の共有による経営の効率化

組織化することで農機の共同利用ができる。稲作を例に見れば、トラクター、田植え機、コンバイン、乾燥機など、一式揃えようとするとかなりの初期費用がかかるが、共同利用することで、個人農家にとって初期費用の負担を抑えることができる。

また、共同作業することによって、農家の交流の場とともなり、ノウハウを共有する場にもなる。なんらかの作業にとても秀でるメンバーがいれば、作業の役割分担をすることもできるだろう。法人化すれば、経理・生産管理・労務管理・商品開発・マーケティングなど、さらに専門化するための人材の獲得・配置などより経営に特化したチームづくりも行うことができる。


集落の農業担い手の確保

組織化し、作業を共同化することは、新たな農家を受け入れるための下地にもなる。株式会社であれば雇用契約を明確にして、人を募集することができる。また、任意団体でも外からの受け入れに対して対応準備を行えば人を呼ぶことは可能だ。例えば「地域おこし協力隊」の受け入れは集落の任意組織の受け入れとしてよい例と言える。

新たな農業候補者にとっては生産組合のような場所は農業の仕事が体験できる貴重な場所になる他、他農家との交流、集落の農業状況などを詳しく知ることができるという点でも貴重な場所となる。農業者としては地域とやっていけるかどうかはとても重要な問題になるからだ。団体としてあることで、新たな農業希望者を受け入れるための良い受け皿にもなるのが集落営農のメリットとも言える。


交付金事業など行政の支援

組織化することで、交付金事業などの支援も受けることができる。公的資金の交付を受けるということは交付金の使用実績などを対外的に説明する義務も発生するが、地域の農地を維持するために支援を受けられることは大きな力となる。


黒倉生産組合の例

私がお世話になっている黒倉生産組合は黒倉集落での任意団体となるが、黒倉生産組合では機械の共同利用を行なっていたり、共同作業を行なっていたりする。



浸種・催芽・播種・苗出しまで

2023年4月8日の播種作業。機械チェックを行う。


この段階では、浸種の設備から土作りの機械、催芽機、播種機、まで生産組合の機械を共同利用し、メンバーも共同で作業を行う。共同作業だけでなく、同時並行で自分独自の方法で準備を行なっている農家もいる。

ここまでの作業はいかに詳しく書いた。


● 浸種 (しんしゅ) :種籾に水分を吸収させる作業

● 種籾の催芽:種籾の芽出し作業の役割や手順を整理する

● 種籾の陰干し:種籾の乾かし方について

● 床土・覆土の準備

● 水稲播種:育苗箱を用意し、播種機を使って播種を行う

● 水稲育苗:田植えにむけた育苗作業と苗出し


育苗

2023年4月20日。シートをかけたり外したりして温度管理を行う。


育苗では、黒倉生産組合では共同苗代を用意しており、生産組合のメンバーが苗管理・水管理を行う。同時並行で苗代を自分で用意し、水管理も自分で行う農家さんもいる。


耕起・施肥・代描き

2023年4月30日:地域の方からお借りしている田んぼで、代描きを行なってもらう。


黒倉生産組合ではトラクターを協働所有しており、個人の農家で借りたい人はトラクターを使うことができる。この段階では協働作業はなく、個人農家が自分の農地を自分で耕す、もしくは農家同士が当事者同士で頼んで耕してもらうというパターンがある。私も現在集落の農家さんからお借りしている田んぼで、黒倉生産組合にトラクター使用料とオペレーター代を払うという形で代描きをしてもらった。


田植え

黒倉生産組合では田植え機を所有しており、個人の農家で借りたい人は田植え機を使うことができる。ここでも共同作業はない。


除草・追肥・水管理・草刈り

除草・追肥・水管理・草刈りなどの田んぼ管理は基本的に個人で農家が行なっている。2023年現在では黒倉生産組合で集まって作業することはない。


稲刈り

黒倉生産組合ではコンバインを所有しているため、個人の農家で借りたい人はコンバインを使うことができる。ここでは共同作業はない。


籾摺り

黒倉生産組合の籾摺り設備。


黒倉生産組合では乾燥機、籾貯蔵タンク、籾摺り機、ライスグレーダー、色彩選別機、自動計量選別機など籾摺りに必要な機械が全て揃っており、個人の農家で借りたい人は使用料を払って機械を使用することができる。もみすりの詳細に関しては下記に書いた。

● もみすりとは:収穫した稲から玄米になるまでの工程


販売

出来上がったお米に関しては、黒倉生産組合は販売には関与せず、農家個人が自分で販路を開拓して販売を行なっている。


共同田んぼ管理の事例

また、黒倉集落では、「縄文ノ和 黒倉」という若手組織で共同田んぼの管理も行なっている。ここでは田植えから代描き、除草、水管理、収穫まで、共同で管理し、出来たお米は集落内の収穫祭や、ECサイトでの販売を行なっている。

https://jomon-wa.jp/


関連記事

関連トピック

#    #    #    #    #    #