塞の神行事:黒倉集落でみた「塞の神行事」から小正月行事の意味や起源について紐解く

「塞の神行事」は地域の伝統行事の一つとして1月15日の小正月に行われる。塞の神行事を含め、全国で行われる小正月の行事には何か共通性があるのか?その意味や起源について紐解く。


塞の神行事とは

塞の神行事は小正月に行われる火祭り行事呼び名の一つ。お正月にしたためた書き初めや昨年に授与したお守り、門松やしめ飾りなどを神社や地域の広場に持ち寄って燃やす。だるまやお祝いで贈られた熨斗(のし)袋なども燃やす地域もある。


小正月行事は全都道府県で行われる国民行事

NPO地域資料デジタル化研究会」によれば、小正月の火祭り行事は、国内の北海道から沖縄までの全都道府県で実施されている日本の国民行事であることが判明している。行事の呼ばれかたも各地域によって異なり、「どんど焼き」と呼ばれている地域や、関西や中国地方では「とんど焼き」、京都・滋賀・岐阜、愛知、北陸周辺で「左義長(さぎちょう)」、東北では「どんと焼き」、長野・山梨・群馬・埼玉・神奈川では「道祖神祭」、九州では「鬼火焚き」、「ほんけんぎょう」などと呼ばれている。


小正月行事はユーラシア大陸全体の行事でもある

小正月行事は住民生活の基礎的な地域単位である「集落」を基盤とする日本の国民的行事であるばかりでなく、新春を迎える火祭り行事として「ユーラシア大陸共通の新年・新春を祝う民俗文化行事」であることもわかっている。(1) 各国では以下のような行事が開かれている。

  • 韓国「テボルム・タルジプ焼き」:本来の旧暦小正月火祭り行事の伝統を守り、日本のどんど焼きと類似の集落農耕儀礼
  • 中国雲南省・四川省「火把節(フゥオバチェ)」:新年の平安と五穀豊穣、農業繁栄を願う
  • イタリア「エピファニー・ピニャルル」:新年農耕儀礼の火祭りで、焚き火を燃やしてこの1年の豊穣を光の神・火の神に祈願
  • 英国「インボルグ火祭り」「ベルテーン」
  • スウェーデン「バルボリ焼き」
  • ロシア「マスレニツァ」:木の枝を積んだやぐらに「冬の案山子」(女性のわら人形)を載せて燃やし、冬の終わりと春の到来を祝う
  • インド「ローリ(Lohri)祭り」:盛大な焚き火で、小麦の豊作祈願と寒い冬の終わり、そして新年と春(夏)の到来を祝い、一年の幸福を祈願する

いずれもそれぞれの国で焚き火に神聖な自然神を見出し、厄払い・悪魔払い、収穫年占いなど同じ祈りを捧げていることが共通している。(1)


小正月行事で何を祝うのか

NPO地域資料デジタル化研究会」によれば、小正月行事は明治以前の旧暦の農耕社会の伝統を引き継いだものであり、旧暦時代の本来の小正月行事は立春新年を迎えた望正月(新暦の二月から三月上旬にあたる)に行われており、農作業を始める節目の時期でもあった。そういった時期の行事であったこともあり以下のような三つの祈りが込められているという。

  1. この1年の集落の繁栄(豊作・豊漁・商売繁盛と防災)」
  2. この1年の住民の健康(無病息災)
  3. この1年の集落(コミュニティ)の明日を担う生命の再生(子宝授けと子孫繁栄)

現在では「集落」という単位は人口減少によって減りつつあるが、生きるために重要な地域コミュニティだったことがこうした行事からも分かる。


集落とは何か:集落の定義や機能、歴史と由来、集落コミュニティの役割と変化

日本では「集落」と呼ばれる地域区分が存在するが、この集落は単なる地域区分という意味だけでなくその地域に住む住民にとって、生きるために重要な地域コミュニティの役割の意味が含まれていることがわかる。

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小正月行事の起源

「小正月の火祭り行事」の起源に関しては様々な論がある。

小正月の火祭り行事の呼び名の一つである「左義長(さぎちょう)」は古くは「三毬杖・三毬打」などと書かれ、もともと木製の毬を杖で打ち合う正月の遊びであり、この遊びで破損した毬・杖を集めて燃やしたのが火祭り行事のサギチョウの起源ではないかと考えられている。(2) また、別の説では1600年以上前の古墳時代からの伝統を持つ福岡県久留米市の「鬼夜(おによ)」や、1300年以上前の飛鳥時代から続く奈良県御所市の「茅原(ちはら)の大とんど」などが起源ではないかという意見もある。(1)

また、世界にまで新春火祭り行事の起源に目を広げてみると、紀元前に始まり、ユーラシア大陸の中央に位置する古代ササン朝ペルシャの「ノウルーズの新年拝火行事」が最も古く、ここから日本や欧州に伝播した可能性があり、令和5年度調査時点で最も有力な仮説だとしている。(1)


小正月行事の様子

塞の神行事を含め、小正月の行事はどのような様子なのか。


新潟県十日町市の黒倉集落:「塞の神行事」

新潟県十日町市松之山黒倉集落での1月15日の塞の神行事に参加した。十日町市では様々な集落で塞の神行事が行われるが、この集落でも例外なく毎回高く積み上げたワラを燃やす。この黒倉集落も集落内には道普請や農業の生産組合などを通じた相互扶助機能があり、昔から集落の繁栄・豊作の祈りが捧げられてきた。


黒倉集落から「集落」を読み解く:1つの集落事例からみた日本の地方コミュニティのあり方

日本には「集落」という住民生活のための地域単位が存在する。この「集落」を読み解くために一つの集落事例を知ることで、日本の地方の地域コミュニティのあり方、そして今問題である少子高齢化を読み解くヒントになりうるかもしれない。

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黒倉集落では午前中に集落のみんなで準備を行う。準備の始めとして、細い木を2本切り出し、会場まで運んでいくところから始まる。松之山エリアでは「若木迎え」ともいわれる伝統行事であり、山の神様に旧年の感謝と新年の恵みを祈念する意味合いを持つ。(3)



燃やすためのワラも会場まで運び込んだ後、ワラを運んできた木に結びつけていく。このワラも黒倉の稲作によって出てきたものも使う。今回は私も2022年の稲刈りの際にとっておいたワラを提供した。



その後、ワラを結びつけた木を立てる。



立てかけた木に爆竹などを入れて完成。昨年のお守りを入れる人もいれば、子供用の字の練習帳の紙を入れている人もいた。完成後にはみんなで御神酒を飲んで、準備は完了。



いよいよ火付の時間。集落住民が全員集合するようになると、お賽銭箱が設けられる。ここでは「二礼二拍手一礼」を行う。



火付け役になるのは今年の年男・年女。



火つけのあと、徐々に燃えていき、煙も高く上がっていく。



その後、この火を使ってスルメを焼いて全員で分け合って食べるのも黒倉集落の恒例となっている。全員で美味しく焼き上がったスルメを分け合った。



長野県小布施町:「安市」

小布施町では毎年1月14・15日に五穀豊穣・商売繁盛を願う伝統行事「小布施の安市」が行われる。二日間にわたって行われるこの行事は、夜でも大勢の人が訪れていた。



「安市」を訪れて印象的だったのはダルマだ。数多くならぶ屋台の中にもダルマ屋台が多く並び、様々なカラーのダルマが置かれていた。



そんな中「ダルマのお焚き上げ」と書かれている場所では数多くのダルマが焼かれていた。



参照:
(1)小正月行事「どんど焼き」の全国・国際調査集計報告(令和5年版)
(2)小正月火祭り行事の比較考察-燃え盛る炎に人々は何を託したか-
(3) 若木迎え

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