利雪(りせつ):利雪の事例・雪を邪魔者ではなく資源として活用する雪国の未来

雪国の暮らしの中で、これまで雪は生活の自由を奪ったり、厄介者としてのイメージとしてみられてきた。しかし「利雪」という考え方の元、雪を資源に変えようとするイノベーションの動きも着々と加速している。


利雪とは

利雪とは何か、定義を調べてみると以下のように定義される。


雪を資源として有効に利活用すること。

https://dictionary.goo.ne.jp/word/%E5%88%A9%E9%9B%AA/


Wikipediaではさらに詳細に利雪を定義する。


利雪(りせつ)は、豪雪地帯における降雪を農産物など食品の貯蔵や住宅などの建物の冷房として利用したり、観光などの地域おこしの材料などとして利用すること。中谷宇吉郎らの提唱による。

利雪 - Wikipedia


克雪・利雪・親雪という考え方

利雪という言葉の定義を確認したが「利雪」とセットでよく使われる言葉として「克雪」、「親雪」という言葉も存在する。「克雪」は雪による被害や問題を克服する意味で使われ、主に除雪対策などでこの言葉が使われる。また、「親雪」は雪と親しむという意味でスキーなどのスノーアクティビティなどは親雪の部類に入る。


「利雪」の広まり

1997年に発行された「利雪技術の展望」によれば、「利雪」という言葉は1981年の豪雪(五六豪雪)を契機に、豪雪地帯に同時発生的に芽生えたとされ、自治体にも「利雪」の考え方が歓迎されて利雪の事例が各地で掘り起こされたと書かれている。また、1991年の「豪雪白書」では利雪から始まり、雪が資源エネルギーであると認識が強まったとも書かれている。また、2001年9月の「月刊 基礎知識」によれば、1988年に改訂された「豪雪地帯対策基本計画」で「克雪」から「利雪」へと考え方を転換し、1992年には豪雪地帯特別措置法 (豪雪法) も改正され、「利雪」という用語が初めて法律に盛り込まれたとも記載されている。

しかし法律として言葉が盛り込まれ、「利雪」という言葉が普及するまで雪を資源として活用する事例がないかと言えばそうでもない。雪氷(58巻6号)の新潟県での利雪事例によれば、江戸時代から特産物の縮を雪上においてさらし、雪面反射光を利用して繊維の漂白を行 っていたことが「北越雪譜」に述べられている。また、長岡市では1930年には雪鳰(ゆきにお)という雪貯蔵施設が市内に四箇所設置され、貯蔵された雪は魚屋の冷凍やキャンデー作り、病人の氷のう用に切り売りされたともされている。



利雪の導入状況

利雪を使った取り組みは多数出てきている。農産物の貯蓄や建物の冷房の機能として雪室を作るなど、雪氷熱エネルギーを活用した施設が生まれてきている。2012年の「雪氷熱エネルギー活用事例集5」出典のデータによおれば雪氷熱エネルギー活用施設の導入状況は以下のようになる。


施設数雪利用氷利用雪・氷併用利用その他
北海道68471533
青森県33
岩手県55
秋田県44
山形県1919
福島県77
新潟県3434
岐阜県33
鳥取県11
合計1441231533
平成29年(2017年)改定の雪氷熱エネルギー活用事例集より


利雪の事例

現在動いている新潟県での雪氷熱エネルギー活用の事例を挙げる。


新潟県の雪冷熱利用施設一覧

2013年に実施された“雪ルネッサンス新潟”事業コンソーシアムの調査報告では、以下の施設が雪冷熱を利用していることが分かる。


市町村名設置者施設名称
新潟市新潟国際情報大学雪冷房施設
長岡市にいがた南蒲農業協同組合花卉球根集出荷予保冷冷蔵施設
長岡市長岡市雪中貯蔵施設
小千谷市長岡市雪中貯蔵施設
小千谷市スノーランド池ヶ原利用組合雪室貯蔵施設 スノーランド池ヶ原
柏崎市高の井酒造㈱雪中貯蔵用タンク
柏崎市社会福祉法人柏崎市社会福祉協議会北条デイサービスセンター
柏崎市塩沢利雪組合雪室付貯蔵野菜等販売所兼冬期共同車庫
魚沼市鵜川雪室の会鵜川の雪室
魚沼市玉川酒造㈱越後ゆきくら館
魚沼市㈲ゆきくらフーズ雪利用漬物生産加工施設
魚沼市魚沼市峠の雪むろ
魚沼市農事組合法人グリーンファーム雪中貯蔵施設
魚沼市JA 北魚沼利雪型米穀低温貯蔵施設(雪室倉庫)
上越市上越市雪むろそば家「小さな空」
上越市上越市上越市立安塚中学校
上越市上越市上越市立安塚小学校
上越市上越市雪のまちみらい館
上越市上越市雪だるま物産館
上越市上越市農産物集出荷貯蔵施設
上越市上越市キューピットバレイスキー場雪冷房施設
上越市JA えちご上越やすづか利雪型米穀貯蔵施設
上越市JA えちご上越柿崎雪中貯蔵庫
上越市㈱岩の原葡萄園岩の原葡萄園雪エネルギー棟
上越市豊坂生産組合信濃坂の雪室
十日町市㈱小嶋屋麺工房
十日町市十日町市体験交流施設「NATURA」(ナトゥーラ)  
十日町市㈱こしじ販売精米貯蔵農産物加工施設
十日町市十日町市仙田体験交流館 雪室
十日町市十日町農業協同組合中里花卉野菜出荷センター
十日町市十日町市・清田山自然運動公園管理組合清田山自然運動公園
南魚沼市㈱アグリコアアグリコア越後ワイナリー
南魚沼市㈱吉兆楽雪蔵貯蔵庫
南魚沼市新潟県新潟県南魚沼地域振興局
南魚沼市八海醸造㈱八海山雪室
南魚沼市㈲きのこはうす上村八色しいたけ栽培棟
津南町㈲大地野菜集出荷貯蔵施設
津南町津南町農業協同組合農産物集出荷貯蔵施設
津南町津南町農業協同組合集出荷予保冷施設
「雪冷熱利用ガイドNiiigata」より


「越後雪室屋」 - 食のブランド化

Photograph : 雪室屋公式ページ


食のブランド化にも「利雪」としての動きがある。新潟県での動きの事例として「越後雪室屋」による活動がある。「越後雪室屋」は天然雪を使った雪室を使用してできた統一ブランドで2022年10月1日時点で20社が加盟しており、厳しい入会審査を通過した企業のみが認可される。

URL:https://www.yukimuroya.jp/index.shtml


「雪室推進プロジェクト」 - 雪室関連のプロジェクト推進

Photograph : 雪室推進プロジェクト公式ページ


雪室推進プロジェクトは上越地域の産・官・学が集まって雪の利活用に取り組むプロジェクトで、事務局は公益財団法人雪だるま財団。雪室での特徴を活かした商品開発や販路拡大、雪国文化や雪室の情報発信、雪室の獅子悦普及、雪室を通じた産業活性に力を注いでいる。

URL:https://yukimuro.jp/


期待される雪氷テクノロジーの発展

雪室などの雪冷熱利用に加え、様々な利雪の展開の提案もされている。1997年に発行された「利雪技術の展望」では以下のような分野で、雪氷の理工学を屈指できると述べている。

  1. 水温調合技術
  2. 雪室・氷室技術
  3. 凍結融解技術
  4. 氷結晶法・冷凍縮技術
  5. 高圧・圧力移動技術
  6. 過冷却技術
  7. 氷温・過冷却環境利用技術
  8. 凍結粉砕処理技術
  9. 雪氷の材料利用
  10. 低温医学・生物学への応用
  11. 雪冷房技術
  12. 地球璅境技術
  13. その他の雪氷の理工学技術の応用

今後さらなる雪氷学の発展によって、利雪の幅も広がっていくかもしれない。


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