十日町市松之山の集落で「新そば祭り」を開催するまで:地域活性化の為の「新そば祭り」開催ガイド

新潟県十日町市の黒倉集落では毎年新ソバ祭りを開催している。今回地域おこし協力隊として開催までの準備に関わらせていただいたが、その舞台裏を紹介する。


開催の目的

「新そば祭り」などの行事を通して外からお金が回ってくる、地域を知ってもらえるというメリットはもちろんなのだが、地域活性化の上で地域内での動きにも変化はある。地域内で普段では生まれないようなコミュニケーションや共同作業が生まれる。

また、黒倉の今回の「新そば祭り」に関して言えば、次の若手世代による地域事業の運営という意味合いもある。次世代が中心となって準備・運営を進めていくことで、その他の事業に関しても円滑に進めていけるような役割も果たしている。このそば祭りでは黒倉集落でのコミュニティとしての「縄文ノ和 黒倉」が中心となって運営しているが、私を含め、30代〜60代のメンバーで結成される。実際黒倉集落では現在70代の方々が中心となって農業の共同作業や集落自治を進めてきているので、その下の世代は「若手グループ」そして次世代の中心グループとしてバトンを渡される時期に来ているのかもしれない。下記の記事で黒倉集落についてまとめている。


黒倉集落から「集落」を読み解く:1つの集落事例からみた日本の地方コミュニティのあり方

日本には「集落」という住民生活のための地域単位が存在する。この「集落」を読み解くために一つの集落事例を知ることで、日本の地方の地域コミュニティのあり方、そして今問題である少子高齢化を読み解くヒントになりうるかもしれない。

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以上も含め、そば祭り開催の目的を箇条書きにしてみると下記のようになるだろうか。

  • 地域内、地域内外でのコミュニケーションの加速
  • 若手世代による地域事業の運営
  • 経済の活発化
  • 農地の活用


2022年そば祭りの来場者・結果

2022年の新そば祭りは11/12, 13に開催された。会場は黒倉集落内にあるフレンチバル「醸す森」前の駐車場で行われ、新そばは醸す森内で天そば、外のテントで地元民によるもりそばが提供される形となった。来場者は2日合わせて225人を記録。黒倉住民によるもりそばは1食700円で販売し、1日目で45食、2日目で55食を記録し、合計70000円の売り上げとなった。


時系列での準備の動き

ここからは時系列で、11/12,13のそば祭り開催までの準備の動きをまとめていく。


7月12日:コンバイン納品

7月12日にそば用のコンバインが黒倉集落に納品されたと連絡が入る。前回はそばの収穫をお願いしていたが、今年から集落内で機械を持つことで、外への依頼無しで収穫が可能になった。


7月25日:蕎麦畑の耕運

蕎麦畑に種を蒔くための準備が始まる。耕運が完了。黒倉集落では米農家をやっている人が多い為、トラクターなどの機械も使えたり、耕作放棄地の剪定、利用で話し合いが素早くできるのも集落で動く強みだろうか。


Photograph : Hitoshi Yokoyama


8月1日:そば畑の播種

蕎麦畑の播種が完了。五反部の畑で12キロ播種。種は「しなの1号」という品種を長野の農家さんから購入した。


8月5日:そばが発芽

蕎麦が発芽する。


Photograph : Hitoshi Yokoyama - 8/5のそば発芽報告時の写真。


8月22日:縄文ノ和でそば祭り会議

8月22日には醸す森のスタッフと縄文ノ和メンバーの合同でソバ祭り会議が行われた。第一回の会議では、開催日や、運用方法の大まかな方向性について話し合った。前回のそば祭りで、大行列を作ってしまった反省を生かして、食べれる場所をさらに追加したり、レイアウトの変更、人員の整理などを一つ一つ確認していく。外で蕎麦を茹でる場合、調理場所はどうするか?調理器具はどこから借りてくるか?どこを受渡場所にするか?そもそも11月という時期にお湯がしっかりあったまるか?こうした課題の洗い出しが話し合いで出てきた。


Photograph : Shotaro Kamimura - 8/22のソバ祭り会議


9月3日:製粉所整備

前回まではお願いしていた製粉だったが今年からは自前で製粉することに。製粉機などを購入する。地域の方が車庫スペースが空いていて製粉スペースとして貸し出していただけるということで、車庫2階を補強して製粉スペースとして利用することになった。



梱包も終了し、製粉スペースが完成。


Photograph : Shotaro Kamimura - 製粉機も設置が完了。


10月〜当日まで:食品衛生責任者講習受講・食品営業許可書の取得

「食品営業許可書」はイベントで食品を提供するためには必須の許可書になる。食品衛生許可書を取るためには、「食品衛生責任者」の講習を受け、修了証書を取得することも必要となる。この食品営業許可書を取るまでに時間を要するため、1−2ヶ月前には準備を進めた。



まず初めに受けるべきなのは「食品衛生責任者」の講習になるが、この講習会はいつでも受けられるわけではなく、日程が決まっているため、早めに日程を抑えて予約しておく必要がある。新潟県であれば「公益社団法人 新潟県食品衛生協会」の公式サイトから日程を確認することができる。その後、最寄りの保健所にて「食品衛生許可書」の申請をすることになるが、申請のための書類作成や調理に関わる人の検便提出などの手続きもある。また、十日町市の保健所の場合では、検便提出は毎週月曜と決まっていたが、開催日ギリギリで「食品衛生許可書」の申請などをすると検便の提出ができないなどのリスクもある。この辺の手続きは時間に余裕を持ってすると良いと感じた。


10月11日:そば刈り

そば刈りが10月11日から開始。コンバインの不調もあり、19日ごろまで続いたが、無事に蕎麦を収穫することができた。


10月14日:新そば祭り会議2回目

開催日から約1ヶ月前の10/14に新そば祭り会議の2回目が行われる。2回目の会議では1回目の会議で出た不明な箇所をより明確にしていく。この時点で、外で蕎麦を茹でて提供することが決まっていた為、スムーズに提供するためにごとくや調理器具がどれだけ必要なのかという計算も行った。そばの茹で方に関しては、以前の越後妻有でのイベントで蕎麦を提供していたイベントを経験している人からのアドバイスをいただいた。茹でる際は3個1組で茹で、茹で時間に1分30秒〜2分かけ、水で洗い、盛り付けで1分30秒くらいを想定。3食分完成にトータル多めに見て4分とみて、1時間で45食作る計算で想定した。また12時からのピーク時間も込めて、茹で始める時間と提供開始時間なども決めていく。また、この会議で整理券などの備品関係や、蕎麦打ちで必要な備品などを洗い出し、買い物リストを作成した。蕎麦を事前に打って冷凍することも決まっていた為、事前に蕎麦打ち用の道具と保存用の道具も購入。当日に必要なごとくや茹でる用の大きな鍋はレンタルで対応した。


10月16日:そばのふるいかけ

そばを刈る際に、倒伏してしまっていたため、刈った時に草が混じってしまう。これをふるいにかけて綺麗にして行く。水分量はこの時21.8%を記録する。手で全て取ろうとすると手に負えなかったが、BBQ用の網などで載せてふるいにかけていくと草が網上に残り、効率よくふるいにかけることができた。



10月23日:チラシ作成・折込に向けて準備

新そば祭り開催の3週間前、まずは広告のためのチラシ作りが始まる。今回は10/30と11/7の折込チラシに2回に分けて入れてもらうため、10/28には実際に手元にチラシがあるような状態まで準備していく。今回は2500部のチラシを用意。2200部は新聞折込に、残り300部は地元のお土産屋や観光協会に配る用に作成した。



10月26日:泥やちりを除く作業

乾燥させ、ふるいをかけたソバから泥やちりを取り除く作業が始まる。


Step 1 : とうみ

唐箕を使って、かぜでちりや草を吹き飛ばす。



Step 2 : 石をぬいてソバを磨く

唐箕での作業が終了後、製粉所に戻り石抜機を使って石を取り除き、そばを磨く作業を開始。


Photograph : Shotaro Kamimura - 石抜き機へ


しかしここで問題発生。何度か石抜き機に蕎麦を通してみるのだが、石のように見えるものがなかなか取れず。製粉の経験者に聞いてみると、倒伏したそばを刈っていくと土の塊も混ざることがあり、これは蕎麦を水で洗うことで消えていくのだという。


Photograph : Shotaro Kamimura - 石のように見える塊は水で洗うととけていくとのこと。


Step 3 : 水洗い

洗うことで蕎麦以外の泥も取れていくとのことなので、水で洗って天日干しをすることに。



2022年は5反部の畑で12キロを播種したが、一番最初の収穫から唐箕による作業が終わった時点で98kgの収穫になった。さらにその収穫したそばを磨くと3.8kgのクズがでて、大体95kgほどに。


11月4日:製粉作業

蕎麦から草や泥など不純物を取り除いた後、製粉の作業を開始。製粉機に入れることで綺麗な1番粉、少し荒い2番粉、蕎麦殻が分かれて出てくる。一番粉と二番粉の配分によって、そばの食感や味も変わっていく。



大体そばは製粉後は6割ほどが使える粉になる計算になるらしい。なので実際に製粉後、それぞれの粉の種類を測ってみた。すると以下のような結果に。

  • もみ殻:13.8kg
  • くず粉:16.1kg
  • 1番粉:26.5kg
  • 2番粉:21.9kg

そばに使える1番粉、2番粉を合わせた48.4kgに全体数量である78.3kgを割ると62%という結果になった。



11/1 - 11/11 : 備品準備

そば祭り開催日の2週間前。新そば会議で洗い出した必要備品を買い揃えていく。レンタル備品など、全ての道具を揃えていく。

  • 各種手渡す紙の印刷(検温、ガラポン抽選券、振舞餅、もりそば引換券)
  • 蕎麦打ちのための道具・布海苔の原料
  • 受付のポップやそばのメニューポップ
  • ガラポン抽選の備品と景品


11/6 - 11/9 : 蕎麦打ち

そば祭り開催日の1週間前になりいよいよ蕎麦打ちを開始。前年度は当日にそばをうってそのまま会場に運んでいたが、蕎麦打ちの関係で人員不足になるということもあり、今年は前もって蕎麦を打ち、冷凍で保存しておく作戦に。生そばは全数量399食の作成に決定。そのうちの配分としては醸す森に180食分(60袋)、黒倉に159食(53袋)、予備に60食(20袋)の配分予定で作成する。133袋を冷凍ということで、冷凍場所もストッカーを持っている地域の方にご協力を依頼することに。

蕎麦打ちの時に必要な準備は以下の通り:


商品名使用目的
シーラー保存用
シーラーの袋保存用
ソバ紙保存用
脱炭素剤保存用
山ごぼうソバの材料
布海苔ソバの材料
銅鍋布海苔を作るための鍋
保冷用発泡スチロール当日の保冷用
保冷剤当日の保冷用
しょうじ用の紙蕎麦打ちでの湿気保持
そば練り機布海苔とそば粉をまぜる機械
こね鉢そばをこねる鉢
麺棒こねたそばを伸ばす棒
麺切り包丁麺を切る


まずは購入した布海苔を銅鍋に入れて、沸騰するまで煮ていく。銅鍋を使用することが大切で、鍋から発生する銅イオンによって布海苔が緑に変化していく。



煮立つと徐々に泡が立ってとろみが出てくるのがわかる。ある程度泡が立ったところで、山ごぼうの葉を入れてまぜていく。



山ごぼうを混ぜた布海苔を火にかけながら混ぜていくと、どんどんとろみが増し、緑色に変化していきながら、布海苔と山ごぼうが溶けていく様子がわかる。



こうして布海苔が完成。ある程度冷ますとドロドロした緑色の布海苔が出来上がる。この布海苔とそばを合わせることで、ふのりそばが出来上がる。


Photograph : Shotaro Kamimura


布海苔が完成後、蕎麦粉とふのりを混ぜて、ある程度混ぜていく。一番最初はそば練り機を使って練っていき、ある程度練れたら人力で丸めていく作業になる。ここで混ぜる際に一番粉と二番粉の配分を変えることで、そばの食感、味が変わっていく。この配分具合でオリジナルのそばが作れるのが面白いところだ。



ある程度混ざったら今度は手でこねていき、ある程度光沢が出るまでこねていく。こねる前とこねる後を比較すると、光沢の出具合で違いが分かる。



光沢がでるまで混ぜた後、ソバを伸ばしていく。伸ばした後はぬらした障子紙にのばしたそばを挟んで乾燥しないように保管。次の段階では蕎麦を折り曲げていくが、その時に、生地同士がくっつかないように蕎麦粉を両面につけながらそばが切れる形に折り曲げていく。



折り曲げた後、たたんだ蕎麦を切っていく。



切り終わった後は量りで計測して、一定量を蕎麦紙に包んで保管する。その後、三食ごとに分けて袋に入れ、脱酸素剤を入れてシーラーで密閉して保管しておく。



結果、4日かけてソバを予定の399食分を打った。私がいない日も含め、大体3−6人で蕎麦打ちを行った。役割としてはそばをこねる人、伸ばす人、切る人、袋に入れる人、という形で役割分担をして蕎麦打ちを行った。この役割の中では、やはり切る役というのが重要なのだが難易度も高い。今回は切る役に助っ人を呼んだ。メンバーの中には会社員で日中働きに出る人が多いため、17:00以降に駆けつけてくれるメンバーもいた。


  • 11/6 - 蕎麦打ち 138食分 (13:00 - ? )
  • 11/7 - 蕎麦打ち 105食分 (15:00 - 21:00 3 ~ 6人)
  • 11/8 - 蕎麦打ち 109食分 (15:00 - 20:00 3 ~ 6人)
  • 11/9 - 蕎麦打ち 47食分 (17:00 - ?)


11/11 : 前日準備

前日は前もって公民館から借りた机と椅子の運搬作業が始まる。外での食べる場所や建物2階の来賓席を作る為、机35、椅子75と公民館からレンタルすることに。もちろんこれだけの数を運ぶことはできないので、地域の方の協力を仰ぎ、集まれる人たちで集まって運搬することに。会社勤めの方もいらっしゃったため、勤務終了後の17:00以降夜遅くに集まっていただいた。


Photograph : Shotaro Kamimura


11/12 新そば祭り1日目

しんそば祭り当日。収穫祭開始の10時に合わせて机と椅子、テントのレイアウトや、調理場所の設置などを準備していく。そばを茹でるためのごとくや消化器、ガスの設置や、勝手市のテント、机、椅子の設置の設置などを開始。



勝手市ではそれぞれ各自に会計、釣り銭を用意してもらうことにした。値札や案内札なども出展者に各自に用意してもらったりした。必要な看板・サインなどは当日になってみて必要だと気づくことも多いもので、紙とペン、テープは常に現場に用意しておくと色々対応できるなと感じた。遠くの人がよく分かるようにA4とできればA3とかの紙などでかい用紙があるととても便利だ。



受付にはメニューの設置のほか、釣り銭やそば、ガラポンなどの各種引換券を用意。



そば茹でに関しては当初の予定通り鍋を三つ用意し、一つはお湯を沸かす専用の鍋に。残り二つの鍋で何十秒か時間差を置いて茹でる形に。



11/13 新そば祭り2日目

11/13は朝からテントが強風で倒れるというハプニングが起こる。このハプニングを受けてテントや調理場所のレイアウトを急遽変更。受付が開いた後も整理券が飛ばされてしまい、番号がぐちゃぐちゃになってしまったり、会計なども風に飛ばされてしまうなど予想外の事態が多発した。今後強風の時の対応は考えなくてはいけないポイントの一つだ。



運用で改善を考えるべきだったこと

そば祭り運営の上で、いくつかの点で改善点が思い浮かんだ。


そばの解凍時間

初日は解凍12時間の段取り(前日の22時に冷凍庫から取り出して冷蔵庫に移動し、当日の10時に茹でるスケジュール)で進めていたが、一部のそばがまだまだ凍っていていたため、蕎麦を茹でるときに苦労してしまっていた。そこで次の日は解凍17時間(17:00には冷蔵庫に移動させ、次の日の10時に茹でる)段取りで行ったら凍らずスムーズに茹でることができた。


情報共有の方法

縄文ノ和ではライングループを作り、チャットで連絡を取っていたのだが、これまで決まった内容がチャットだと埋もれてしまい、一度決まったことが分からなくなってしまったり、「あの準備はどうなってるんだっけ」と誰が何の担当で何を把握しているのか、という確認が取りにくいという状況が多々あった。(自分のメモの取り方や仕事の進め方が悪かったということも十分にありえるが)。どのように情報をストックして、いつでも簡単に引き出す仕組みを作るかは改善できるのではと感じた。ただ情報をストックするツール自体は世の中には沢山あるものの、そば祭りなどの取り組みは全員のボランティアで成り立っており、新たなツールを使うことは学習コストとして負担がかかることを考えると、ただツールの導入を勧めれば良いという話にはならない。


茹でた分の食品ロスの計算

茹でたときに、細かいそばがバラけてしまい、当初予定してた食数が減ってしまうということが起こった。整理券などで食数を通し番号で管理している場合、このロスによって最後の方でまだ整理券はあるのにそばがないということもあり得る。(幸い今回はそのリスクは現実にならなかった)。茹でた分のロスは考えておくべきだということがわかった。


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