日本の食には欠かせないお米。稲作は日本古来から行なわれ、稲作から日本の文化も多く生まれた。ここではお米づくりの一年の流れと稲作の手順を紹介する。
そもそも稲作とは?
稲作とは文字通り稲を作ることだ。稲は植物状態の米のことを指しており、収穫した稲の穂を籾摺りをして玄米にし、玄米を精米することでいつもの白米になる。
詳しくはこちらに書いた。
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栽培のやり方、地域、品種によって異なる稲作の手順
お米作りの一年の流れは様々な要因によって稲作の手順が変わってくる。下記のポイントによって稲作の手順やスケジュールは変化していく。
- 直播栽培か移植栽培か
- 水稲か陸稲か
- 米の品種
- 地域・気候
- 栽培方法
- 機械か手作業か
- 前年度の稲作の状況
1: 直播栽培か移植栽培か
「直播栽培」といって田んぼに直接種を撒く方法と、「移植栽培」といって田んぼに育てた苗を植える方法によって手順は変わってくる。
2: 水稲か陸稲か
「水稲」は田んぼで作られる稲であり、「陸稲」は畑で作られる稲になる。
3: 米の品種
米の品種によっても育て方は変わる。普段の生活の中で馴染み深い米としては下記のようなものがある。
- うるち米:コシヒカリ、あきたこまちなど、普段食べられているお米
- もち米:お餅や赤飯などに使われるお米
- 酒米:日本酒を造る時に使われるお米
4: 地域・気候
気温などの違いによっても稲作のスケジュールは変わる。地域によっては雪の影響によってスケジュールに影響が出ることもある。十日町市松之山の場合、豪雪地帯のため、春もたくさん雪が残っている。2022年度は、4月1日になった時点でもまだ2mほどの雪が残り、田んぼは姿を現さない。なのでスケジュールが通常の稲作より少し異なることもある。
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5: 栽培方法
栽培方法によっても稲作の方法は変わる。代表的な栽培方法には以下のようなものが挙げられる。
- 慣行栽培
- 有機栽培:自然由来の農薬と肥料は使用が認められる。
- 無農薬栽培:農薬を使用せずにお米を栽培する。
- 自然栽培:無農薬無肥料でお米を栽培する。
6: 機械か手作業か
現在の慣行栽培では田植えには田植え機、収穫にはコンバインなど、様々な機械が使われているが、昔は手作業で行われる作業だった。
7: 前年度の稲作の状況
前年度の稲作、土の状態も踏まえて稲作は考える必要がある。特に前年度別の農家が作っていた田んぼを今年度から引き継ぐというような状況も起こりうるので、前年度の稲作の影響も考える必要はある。
現在の稲作の中心は農機を使った慣行栽培
栽培のやり方、地域、品種によって稲作のやり方は変わってくるものの、ここでは最も一般的なうるち米の水稲栽培で、農機を使用した「機械移植栽培」を見ていくと共に、比較として手作業や自然栽培での稲作の流れも見ていきたい。
一般的な作業の流れ
農機を使用した慣行栽培の米作りの手順の流れは農林水産省の情報を元に以下に図にまとめた。
大体4月に苗を育てたり、土作りを行なっておき、5月、6月ごろに田植えに入る。田植え終了後は収穫まで水管理を行なったり肥料を与え、9月、10月頃に収穫を迎えるという流れになる。
育苗
3月になり、雪も落ち着くと、まずは田植えをするための苗を育てていく作業に入る。
浸種
まずは種籾を発芽させるために必要な水分を吸収させる「浸種」という作業に入る。「種籾」とは種として撒くために使われる籾のことだが、種籾は去年収穫した稲から種籾を残しておく農家もいれば、購入する農家もいる。
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浸種 (しんしゅ) :種籾に水分を吸収させる作業
稲作の準備の第一歩として、種籾の浸種(しんしゅ)という作業が行われる。種籾(たねもみ)が発芽するために必要な水分を吸収させる訳だが、ここではその手順について見ていく。
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芽出し
種籾を暖かいお湯につけることで一斉に種籾を発芽させる作業を行う。自然に待っていても発芽するが、成長のタイミングがバラけてしまうため、芽出し作業として一定の温度で管理して暖かいお湯につけることで、種籾の発芽のタイミングを揃える。
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種籾の催芽:種籾の芽出し作業の役割や手順を整理する
稲作の準備で浸種(しんしゅ)が終わると次は種籾の催芽作業が始まる。種籾の芽出し作業の役割や手順について見ていく。
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種籾の陰干し
催芽作業が終わると、種籾を乾かして、播種作業に移行することになる。
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床土・覆土作り
苗を育てるための土を作る作業も春に行われる。慣行栽培では土と共に農薬と肥料を混ぜて作る場合もあるが、無農薬・自然栽培の場合はここでは農薬や肥料を使わずに土作りを行う。
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播種
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育苗・苗出し
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育苗管理
田植えが始まるまで、苗を管理する作業になる。
田んぼ準備
育苗の準備を始めている間、水田も田植えができるように準備を進めていく。土を起こし、水を入れて泥にして平らにし、田植えの準備を始める。松之山では5月までは積雪があるため、雪が溶けてから田んぼ準備が始まる。積雪によっては、田植え時期が遅れてしまう場合があるため、秋に代かきをすることもある。
田起こし
慣行栽培では、トラクターにロータリを装着して土を起こし、肥料を混ぜる作業が始まる。
入水
田を起こした後は田んぼに水を入れていく。
代掻き
水を入れた後は田植えをしやすくするために、水と土をかき混ぜていき泥にして、平らにしていく。
田植え
5月・6月ごろになると田植えが始まる。
田植えは田植え機を使って植える方法もあれば、手で植える方法もある。2022年度今回私は手植えでやらせていただいた。手で植える場合は、事前に線を引いておき、植える場所に目印をつける必要なども出てくる。また、慣行栽培と自然栽培では田植えの間隔が違うなど、違いも出てくる。手植えの様子はこちらに詳しく書いた。
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田植えの植え方 :田植えスケジュール、装備、手植え機械植えの様子まとめ
苗出し作業が終わり、苗が十分に伸びると、田植えの作業が始まる。
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田んぼ管理
田植え後は水管理をしたり、肥料・農薬を与えたりなど様々な管理を収穫までに行う。無農薬・自然栽培の場合は、除草剤などを使わないことになるので、雑草抜きも欠かせない作業になる。
水管理
中干しと言って田んぼの水を抜き、土に日々が入るまで乾かす作業がある。中干しによって、化学肥料の効果で過繁茂しすぎてしまう茎を強制的に止めたり、収穫にコンバインを使う場合は乾かすことで収穫時に機械作業に適した土の固さを保つことができる。機械を使わない場合は、機械作業に適した土の固さを考慮する必要がないため、中干しせずにそのまま水を溜めっぱなしにしておくこともできる。
追肥
生育状況に応じて、慣行栽培では追加で肥料を与えることを推奨している。肥料の与え方、時期は地域や品種によって異なる。JA十日町が発行する「令和4年度稲作情報 No.4 十日町版」では、品種別の出穂期予想や、予想に応じた穂肥時期のめやすが記載されていたり、施用量なども記載されている。有機栽培の場合は与える肥料も変わってくるし、自然栽培の場合は肥料を与えないのでこうした追肥のステップはいらなくなるので、栽培方法によってやり方は変わってくる。
雑草防除
田んぼには苗以外にも、様々な草が生えてくる。いわゆる「雑草」と言われる草達は、稲に行くはずだった養分を吸収したり、日光を遮ったり、風通しが悪くなったり、病害虫の発生源となったりと、稲の成長を妨げる原因となる。(1) そこで、慣行栽培の場合は除草剤を使うことで雑草を取り除いていく。自然栽培の場合は農薬を使わないため、雑草を手や道具を使って抜いていき、苗の成長を雑草が阻害しないように気をつけていく。
畦の草刈り
田んぼの畦にも雑草は生えてくるため、草刈機を使って雑草を刈っていく。畦の雑草は雑草の根が畦を強化しているため、除草剤を使うと根まで枯れ、畦が弱くなる原因にもなる。(1) 年間の草刈回数は平均で3 - 4回になる。
病害虫防除
稲にとっての害虫も現れる。ウンカ、カメムシ、イナゴなどの虫は稲の葉や茎から汁を吸いとってしまう。(2) そのために慣行栽培では農薬による害虫駆除が行われる。「令和4年度稲作情報 No.4 十日町版」では、斑点米のカメムシ防除のために「スタークル粒剤」の散布などを紹介している。
農薬を使わない栽培方法の場合は、手で虫を取る、害虫の天敵である「益虫」と呼ばれる虫を増やすための環境づくりを行う、防虫ネットを使うなど、さまざまな工夫が必要になる。
収穫・脱穀
穂が熟してくると、収穫作業に入る。
収穫
機械で収穫する場合はコンバインという機械で刈り取っていく。刈った稲は自動的に籾とワラに分類されていく。
手刈りの場合は、鎌を使って刈り取っていく。もし刈った後にはさがけでの自然乾燥を考える場合、手刈りの場合は刈った稲を結んで束ねておく必要がある。刈った後にその場で結べるように、ソリなどを用意しておくと結ぶのに便利。
手刈りでの稲刈りの様子はこちらでまとめた。
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脱穀
稲を刈り取った後は脱穀と言って刈り取った稲から籾を外していく作業になる。現在ではコンバインに脱穀機能がついているため、刈り取り後にすぐに脱穀の作業に移ることができる。
脱穀して分離した後の茎の部分は乾燥すると「ワラ」になる。昔はゾウリなど様々な生活用具に使われていた。
現在でも黒倉集落では菅笠(すげがさ)を被っている人もいるし、またここで収獲したワラを取っておいて、小正月の「塞の神行事」などにも使う。
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そして冬へ...
こうして白米が消費者の元へ届けられ、冬へ突入。雪国では雪で田んぼが覆われていき、米作りの一シーズンが終わりを告げる。
参照: (1)除草剤の散布と畦(あぜ)の草刈り (2)害虫と稲を守る昆虫